本作を観ていて筆者がすぐに思い出したのは、アレックス・ゴールドファーブとマリーナ・リトビネンコの『リトビネンコ暗殺』のこと。この事故が起こった頃のロシアの状況がよくわかり、事故が持つ意味も変わってくる。そのことはニューズウィーク日本版の記事で書いたが、そこで触れなかったものの、印象深かったことを以下に引用しておきたい。
ウラジーミル・プーチンを大統領の地位につかせた仕掛け人は、オリガルヒ(新興財閥)のボリス・ベレゾフスキーだが、彼が振り返るプーチンの人物像というのが興味深かった。
「プーチンはそもそも自分の使命を、政治的な観点から理解したことが一度もない、とボリスは振り返った。”忠誠心があり、誠実”ではあるが、どんな政治理念も持たない”発育不充分な人物”だと。プーチンのアイデンティティは、柔道のチーム、FSB、サンクトペテルブルクのリベラル派やファミリーなど、所属する集団によってつねに定められてきた。彼のメンタリティは、子供のころの不良グループから派生したものであり、ものごとの本質より”われわれ”という考え方が重視される。”われわれ”対”彼ら”の図式なのだ――たとえ”彼ら”が残りの全世界を意味しようとも」 |