[ストーリー] フランス、パリ。強盗に明け暮れるピエールは、15歳から音信不通だった父が死んだことを突然知らされる。アントワープのダイヤモンド商家生まれの父は、ダイヤの研磨作業中に不慮の事故で手先を失い、その後精神を病み、家族の前からも姿を消し、野垂れ死んだのだ。それを知らされたピエールは、生家から追放された父の過去とみじめな最期に、父の兄ジョゼフを長とする一族への復讐と、ダイヤの強盗を誓う。
舞台はパリから、ベルギーのアントワープへ。しかし生まれて初めてダイヤモンドに触れたピエールは、自分の体内に流れる、父から受け継いだ血が騒ぎだすのを感じるのだった。そしてそれは、悲劇への序章でもあった――。[プレスより引用]
[以下、本作のレビューになります]
フランスの新鋭アルチュール・アラリの『汚れたダイヤモンド』は、ショッキングなシーンから始まる。ダイヤの原石をカットしていた若い男が、誤って指を切断し、血が飛び散る。それは過去の出来事で、指を失った男の息子ピエールの物語が始まる。窃盗団の一員である彼はある日、消息不明の父親が野垂れ死にしたことを知る。ダイヤモンド商の家に生まれた父親は、事故後、兄から冷たい仕打ちを受け、惨めな最期を迎えることになった。復讐を誓うピエールは、伯父に接近し、彼が仕入れた高価なダイヤの強奪を計画する。
この映画は、体裁はフィルム・ノワールだが、その枠に収まらない独自の視点が埋め込まれている。ピエールは、伯父の息子と親しくなり、一族に迎え入れられる。だが、ダイヤモンド取引の世界に分け入ることは、彼に復讐の機会をもたらすだけではない。彼は、伯父が信頼する熟練のカット職人リックに弟子入りし、ダイヤの輝きに魅せられ、才能を開花させていく。すると、伯父も彼に信頼を寄せるようになる。
そこで注目したいのが、父と子の関係だ。ピエールにとって亡くした父親の存在は大きく、どう乗り越えればいいのかわからないまま復讐に走ろうとしている。あるいは、彼は乗り越えるための父親的存在を必要としているともいえる。だから最初は窃盗団のリーダー、ラシッドが父親的存在に見えるが、伯父の一族やダイヤを扱うプロたちと親しくなるにしたがって、その図式が変化する。
つまり、ピエールの運命は、彼が自分を取り巻く人物たちの誰とどのように父子的な関係を築くかで決まる。なかでも興味深いのが、カット職人のリック、そして一族の命運の鍵を握るインド人のダイヤモンド商との関係だ。このふたりにとって、ダイヤが放つ輝きは絶対的なものであり、私的な感情や損得を超越している。
もしピエールがダイヤを通して彼らと価値観を共有することがなければ、運命はまったく違ったものになっていただろう。彼は輝きに導かれて自分に目覚めていく。アラリ監督は、父と子の関係とダイヤの輝きを巧みに結びつけ、ピエールのイニシエーション(通過儀礼)を鮮やかに描き出している。 |