彼は制約を最大限に活用すべく緻密な設定とシナリオを作り、
複雑な群像劇を紡ぎだす。そこには69年生まれの監督ならではの野心を見ることができるが、そんなことを考えるのは映画を振り返る段階のことで、観客は映画が醸しだす濃密な空気に引き込まれてしまうに違いない。
主人公は、父親の還暦を祝う宴の席で醜悪で苦痛に満ちた家族の秘められた過去を暴露する。その行為そのものは、座が一瞬ざわめく程度の波紋を投げかけるにすぎない。
しかし、この集団の人間関係のなかで、それぞれに特別な想いをうちに秘めている主人公の姉や弟、
その恋人や妻、メイドや料理人たちの感情がこの主人公の行為に呼応し、開放的な宴の席は状況的にも心理的にも閉塞的な空間へと変貌していく。
招待客たちはこの閉塞感から逃れるために、黒人である主人公の姉の恋人をスケープゴートにし、酔いにまかせて奇行を繰り広げるが、
絡み合う感情は最後まで真実を求めつづけ、還暦の祝宴は別な儀式へと姿を変える。
夜が更け、蝋燭の炎のなかで人物の輪郭すらぼやけていくとき、主人公は神秘的な空間のなかで自殺した妹との邂逅を果たし、彼を支配した父親の存在を乗り越え、愛を受け入れていく。彼にとってそれは失われた自己を呼び覚ます重要な通過儀礼となるのだ。 |