パーフェクト・プラン
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(2014) on IMDb


2013年/アメリカ/カラー/90分/スコープサイズ/5.1ch
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(初出:)

 

 

“汚れた金”をめぐる四つ巴のサバイバル

 

[ストーリー] ロンドン郊外の安アパートに住む請負労働者トムと小学校教師アナの夫妻。シカゴから再起を誓い移住して来たふたりは、祖母から相続した屋敷を改築し子供を持ち幸せに暮らすという夢を抱いていた。ある日、トムの元にひとつの通知が届く。“退去勧告”。政府による金融引き締め政策と外国人労働者への取り締まり強化により、ふたりは経済的に追い込まれていた。

 途方に暮れる中、思わぬ事態が訪れる。階下の住人が3500万円の大金を残して突然死したのを発見したのだ。持ち主不在の3500万円。近づく、退去期限。そして、ふたりは遂に金に手を出してしまう。慎ましやかな夢を叶えるために。しかし、それは絶対に手を出してはいけない金=黒金(くろがね)だった。金を巡りマフィア、麻薬密売組織、そしてある事件の復讐を誓う刑事がふたりに迫る。つかの間の“安心”を手に入れたふたりが掴んだのは、恐ろしい陰謀が蠢く闇世界への切符だった。[プレスより]

 母国デンマークで評価され、海外にも活躍の場を広げている監督といえば、トマス・ヴィンターベア『セレブレーション』、『アンビリーバブル』、『偽りなき者』)、スサンネ・ビア『ある愛の風景』『アフター・ウェディング』『悲しみが乾くまで』)、ロネ・シェルフィグ(『幸せになるためのイタリア語講座』、『17歳の肖像』、『ワン・デイ 23年のラブストーリー』)、ニコラス・ウィンディング・レフン(『プッシャー』、『ドライブ』、『オンリー・ゴッド』)、ニールス・アルデン・オプレヴ『ミレニアム ドラゴン・タトゥーの女』『デッドマン・ダウン』『スピード・ウォーキング(英題)』)といった名前が思い浮かぶ。

 ヘンリク・ルーベン・ゲンツ監督も『ハッダーの世界』『チャイナマン(英題)』『テリブリー・ハッピー(英題)』『エクスキューズ・ミー(英題)』といった作品でデンマークで評価され、この『パーフェクト・プラン』でアメリカ映画を手がけることになった。ジェームズ・フランコ、ケイト・ハドソン、トム・ウィルキンソン、オマール・シーと、キャストもなかなか豪華だ。

 但し、ゲンツが選んだ題材には疑問が残る。彼はこれまで共通するテーマを追求してきた。ファンタジックな『ハッダーの世界』(03)では、父親と暮らす孤独な少年が、現実と幻想の境界を行き来しながら問題を抱えた同級生と友情を築いていく。『チャイナマン(英題)』(05)では、妻から三行半を突きつけられた主人公の配管工が、財産分与の資金を調達するために中国人の女性と偽装結婚をするが、それが新たな関係の始まりとなる。


◆スタッフ◆
 
監督   ヘンリク・ルーベン・ゲンツ
Henrik Ruben Genz
脚本 ケリー・マスターソン
Kelly Masterson
原作 マーカス・セイキー
Marcus Sakey
撮影 ヨルゲン・ヨハンソン
Jorgen Johansson
編集 ポール・トシル
Paul Tothill
音楽 ニール・ダヴィッジ
Neil Davidge
 
◆キャスト◆
 
トム・ライト   ジェームズ・フランコ
James Franco
アナ・ライト ケイト・ハドソン
Kate Hudson
ホールデン(刑事) トム・ウィルキンソン
Tom Wilkinson
カーン(フレンチマフィア) オマール・シー
Omar Sy
ジャック(麻薬売人) サム・スプルエル
Sam Spruell
サラ アナ・フリエル
Anna Friel
-
(配給:東京テアトル=日活)
 

 ブラック・コメディの『テリブリー・ハッピー(英題)』(08)では、神経症から起こした過ちが原因で妻子から見放された警官が、田舎町に左遷となり、閉鎖的なコミュニティの泥沼にはまり込んでいく。ダークなファンタジー『エクスキューズ・ミー(英題)』(12)では、娘よりも犬をかわいがる母親と暮らすヒロインが、自分の父親だと思う人物に接近するために落ち目の劇団に参加し、新たな関係を築く。

 つまり、コメディであれファンタジーであれ、孤立する主人公が新たな関係を築き、居場所を見出すことがテーマになっている。しかし、この新作の見所になるのは、夫婦と刑事、フレンチマフィア、麻薬密売組織の駆け引きやサバイバルであって、内面には迫りようがない。クライマックスの銃と釘打機の対決はなかなかスリリングではあるが、そこから新たな関係が築かれるわけではない。むしろ、『シャロウ・グレイヴ』(95)のように、予想もしないかたちで大金が転がりこむことによって、結束していた主人公たちの関係が崩れていくような物語のほうが、この監督の個性を発揮することができたかもしれない。


(upload:2015/02/08)
 
 
《関連リンク》
ヘンリク・ルーベン・ゲンツ 『テリブリー・ハッピー(英題)』 レビュー ■
ヘンリク・ルーベン・ゲンツ 『エクスキューズ・ミー(英題)』 レビュー ■
ヘンリク・ルーベン・ゲンツ 『チャイナマン(英題)』 レビュー ■
ヘンリク・ルーベン・ゲンツ 『ハッダーの世界』 レビュー ■
ニールス・アルデン・オプレヴ 『デッドマン・ダウン』 レビュー ■
スサンネ・ビア 『悲しみが乾くまで』 レビュー ■

 
 
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