テリブリー・ハッピー(英題)
Frygtelig lykkelig / Terribly Happy Terribly Happy (2008) on IMDb


2008年/デンマーク/カラー/90分/スコープサイズ/ドルビーデジタル
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(初出:)

 

 

ユトランド半島南部、平原に囲まれた閉鎖的な町
心を病み、左遷させられた警官がはまり込む泥沼

 

[ストーリー] まだ若い警官ロバートが署長に案内されて、コペンハーゲンからユトランド南部の辺境にある寂れた町にやって来る。彼はあるミスをおかし、セラピーを受け、そこに左遷させられた。妻に見放され、愛娘と引き離された彼は、真面目に職務を果たせばすぐに戻してもらえると思っているが、次第に町の異様な空気にのまれていく。

 自転車屋の主が姿を消しているが、住人たちは誰も気にかけていない。夜になると少女が、ぬいぐるみを乗せたベビーカーを押して通りを徘徊している。主婦インゲが、夫の暴力に耐えかねて救いを求めてくるが、地元の医者はDVを否定する。やがてロバートはインゲの色香に惑わされ、深刻なトラブルに巻き込まれていく。

 『ハッダーの世界』(03)、『チャイナマン(英題)/Kinamand』(05)のヘンリク・ルーベン・ゲンツ監督の長編第3作です。デンマークで賞を総なめにしたスリラー/ブラック・コメディです。

 主人公の新たな任地には独自のルールがあり、町外れにある沼がそれを象徴しているともいえます。臭いものには蓋をというわけで、厄介なものはすべてそこに沈めてしまうからです。寂れた町に着いたロバートは、署長の車を降りるときにさっそく泥濘に足をつけ、その後の展開を予感させます。トラブルの後では、足元の床から血が滲み出します。

 ロバートはコペンハーゲンから、抗うつ剤らしきものを持参していますが、着任早々、飲むのをやめ、トイレに流してしまいます。それも幻想にとらわれる一因といえそうです。署長は別れ際に、「Mojn」という土地の挨拶を彼に教えますが、自分を見失っていくロバートは、前任者が飼っていた猫の鳴き声まで挨拶に聞こえるようになります。

 ゲンツ監督の作品には、共通するテーマがあります。『ハッダーの世界』でも、『チャイナマン(英題)』でも、『エクスキューズ・ミー(英題)/Undskyld jeg forstyrrer』(12)でも、孤独な(あるいは孤立した)主人公が、偶然の成り行きで新たな関係を構築していく物語を描いています。この映画はブラック・コメディなので、孤立するロバートは、非常に皮肉なかたちで関係を構築することになります。町で実権を握る人物たちの楽しみはカード・ゲームですが、前任の保安官の場所は空席になっています。


◆スタッフ◆
 
監督/脚本   ヘンリク・ルーベン・ゲンツ
Henrik Ruben Genz
脚本 Dunja Gry Jensen
原作 アーリン・イェプセン
Erling Jepsen
撮影 ヨルゲン・ヨハンソン
Jorgen Johansson
編集 カスパー・レイク
Kasper Leick
音楽 Kaare Bjerko
 
◆キャスト◆
 
Robert Hansen   ヤコブ・セーダーグレン
Jakob Cedergren
Ingerlise Buhl レーナ・マリア・クリステンセン
Lene Maria Christensen
Jorgen Buhl キム・ボドニア
Kim Bodnia
Dr. Zerlgeng ラース・ブリグマン
Lars Brygmann
Kobmand Moos アナス・ホーベ
Anders Hove
Politimester Jens Jorn Spottag
Bartender Bodil Jorgensen
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(配給:)
 

 一般的には、コーエン兄弟の『ブラッド・シンプル』と比較されることが多いようですが、オリヴァー・ストーン『Uターン』(97)と比較しても面白いと思います。

 映画の冒頭には「実話に基づく」という前置きがありますが、実話にインスパイアされたのはゲンツ監督ではありません。原作は、ゲンツ監督の友人でもあるデンマークの作家アーリン・イェプセンの小説で、ゲンツ監督の次の作品『エクスキューズ・ミー(英題)』もイェプセンの小説の映画化になっています。


(upload:2015/06/20)
 
 
《関連リンク》
ヘンリク・ルーベン・ゲンツ 『パーフェクト・プラン』 レビュー ■
ヘンリク・ルーベン・ゲンツ 『エクスキューズ・ミー(英題)』 レビュー ■
ヘンリク・ルーベン・ゲンツ 『チャイナマン(英題)』 レビュー ■
ヘンリク・ルーベン・ゲンツ 『ハッダーの世界』 レビュー ■
オリヴァー・ストーン 『Uターン』 レビュー ■
トマス・ヴィンターベア 『光のほうへ』 レビュー ■
クリスチャン・レヴリング 『フィア・ミー・ノット(英題)』 レビュー ■
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