ある愛の風景
Brodre / Brothers


2004年/デンマーク/カラー/117分/ヴィスタ/ドルビーSRD
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(初出:「eiga.com」2007年11月20日更新、加筆)

 

 

償うことができる罪と取り返しのつかない罪
安全が確保された環境と不安定な世界の狭間で

 

 デンマーク出身の女性監督スサンネ・ビアは、『しあわせな孤独』(02)を作り上げたあとで、自分の関心と9・11以後の世界が深く結びついていることを強く意識するようになった(海外のあるインタビューのなかでそのように語っていた)。彼女が関心を持っていたのは、思いもよらない出来事によって日常が崩壊しかけたとき、人はその危機的な状況にどのように対処するのかということだった。一方、9・11以後の世界には、どこでなにが起こってもおかしくないような不安が広がっていた。

 そして、そのふたつの要素が交差するのが、『しあわせな孤独』に続くこの『ある愛の風景』だといえる。もちろんマイケル・ムーア監督の『華氏911』が警告しているように、9・11以後の世界に広がる不安をいたずらに煽れば、権力者に荷担してしまうことになるが、これはそういう作品ではない。

 “Brodre/ Brothers”という原題/英語題が示唆するように、この映画では兄弟の関係が鍵を握る。兄のミカエルは、美しい妻とかわいい娘たちという家族に恵まれたエリート兵士であり、満たされた毎日を送っている。強盗の罪で服役していた弟のヤニックは、定職もなく、両親や兄の妻子と打ち解けることができず孤立している。


◆スタッフ◆
 
監督/原案   スサンネ・ビア
Susanne Bier
脚本/原案 アナス・トーマス・イェンセン
Anders Thomas Jensen
撮影 モーテン・ソーボー
Morten Soborg
編集 ペニッラ・ベック・クリステンセン
Pernille Bech Christensen
音楽 ヨハン・セーデルクヴィスト
Johan Soderqvist
 
◆キャスト◆
 
サラ   コニー・ニールセン
Connie Nielsen
ミカエル ウルリッヒ・トムセン
Ulrich Thomsen
ヤニック ニコライ・リー・コス
Nikolaj Lie Kaas
ヘニング ベント・マイディング
Bent Mejding
エルサ ソビョーリ・ホーフェルツ
Solbjorg Hojfeldt
NP パウ・ヘンリクセン
Paw Henriksen
ディーチ ローラ・ブロ
Laura Bro
アーレントフト ニルス・オルセン
Niels Olsen
ナタリー サラ・ユール・ヴェアナー
Sarah Juel Werner
カミラ レベッカ・ログストロープ・ソルトー
Rebecca Logstrup Soltau
聖職者1 ラース・ヒョーツォイ
Lars Hjortshoj
聖職者2 ラース・ランゼ
Lars Ranthe
-
(配給:シネカノン)

 そんな彼らに思いもよらない出来事が起こる。デンマーク軍の一員としてアフガニスタンに派遣されたミカエルが、作戦中にヘリもろとも撃墜される。戦死の知らせによって妻子や両親は喪失感に苛まれ、憔悴していくが、そこで彼らの支えになったのは、心を入れかえたヤニックだった。そして、ミカエルの妻サラとヤニックの距離は次第に縮まっていく。だがそんなときに、九死に一生を得てアルカイダの捕虜になっていたミカエルが、別人のようになって帰還する。

 この映画の冒頭には注目すべき場面がある。そこではミカエルの信条が明らかにされている。ミカエルが刑務所から出所したヤニックを出迎え、家に向かうクルマのなかで兄弟の会話が始まる。ところが途中でヤニックが怒り出し、クルマを降りてしまう。ミカエルは、弟が働いた銀行強盗にまで責任を感じ、自ら被害に遭った行員に謝罪に行っていたのだ。刑務所で罪を償ったヤニックは、わざわざ行員に謝罪する必要はないと考えていたのだろう。

 強い責任感と義務感を持つミカエルは、どんな罪でも償わなければならないし、償うことができると信じている。そんな信条は、このドラマに独自の視点をもたらし、深みを生み出していく。

 ミカエルの戦死を知らされたヤニックは、兄の信条に従うかのように行員に謝罪に行く。そして、行員と和解した彼は、家族との溝も埋めていく。その時点では、兄の信条は正しかったといえる。ところがその頃、アフガニスタンでは、捕虜となったミカエルが一線を越え、取り返しのつかない罪を犯している。帰還した彼は、それでも何とか罪を償うために無線技師の妻に会いにいくが、幼い息子の姿を目の当たりにして精神的に追い詰められる。

 このドラマは、罪と贖罪をめぐってひとつの段階から次の段階へと移行する。その状況はきわめて深刻だが、スサンネ・ビアは、必ずしもそれを悲劇として描いているわけではない。どんな罪も償うことができると信じることは、突きつめれば自分を取り巻く環境をすべてコントロールできることを意味する。たとえば、ミカエルの一家が暮らしているサバービアの生活環境のように。

 もし彼らが、現在の不安定な世界と繋がることがなく、身の回りの安全だけを確保しようとする環境のなかで、敷かれたレールの上を歩んでいれば、画一化された幸福は得られたかもしれない。だがそれは、あらかじめ枠組みが定められたような幸福だ。ミカエルを通して世界と向き合うことになったサラは、夫がいる段階へと踏み出し、より深い愛に目覚めていくのだ。


(upload:2010/09/11)
 
 
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