マグノリア
Magnolia


1999年/アメリカ/カラー/187分/スコープサイズ/ドルビーデジタルDTS・SDDS
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(初出:「ハイファッション」、若干の加筆)

 

 

絆を失い、虚構に逃避していた家族たちに訪れる奇跡

 

 『マトリックス』のウォシャウスキー兄弟や『シックス・センス』のM・ナイト・シャマラン、これから公開になる『スリー・キングス』デヴィッド・O・ラッセル『マルコヴィッチの穴』スパイク・ジョーンズなど、アメリカ映画界では新世代の監督たちの台頭が注目を集めている。

 彼らの背景、キャリア、主題や表現スタイルは多様であり、特に共通点があるわけではない。ただひとつはっきりしているのは、現実と虚構のとらえ方がこれまでの監督たちとは違うということだ。彼らは確固とした現実を前提として魅力的な虚構の世界を構築しようとはしない。彼らにとって現実はすでに虚構に満ち満ちている。それゆえ現実ではなく虚構から世界を切り開き、そのなかで独自の現実をつかみとろうとする。

 『ブギーナイツ』で注目されたポール・トーマス・アンダーソンも、そんな新世代を代表する監督のひとりである。彼は現実が虚構と化した時代の申し子だといえる。彼が育ち、好んで作品の舞台とするサンフェルナンド・バレーは、戦後いち早く郊外化が進み、アメリカの夢の象徴となったが、80年代には全米で最も離婚率の高い地域になっていた。その事実は“郊外の幸福な家族”が虚構だったことを物語っている。

 しかし、サンフェルナンド・バレーでは、家庭が崩壊しても虚構は終わらない。ハリウッドからポルノやテレビ産業まで、様々なショービジネスの拠点になってもいるからだ。アンダーソンの作品には、そんな土地の特徴が巧みに反映されている。

 70年代後半から80年代初頭のサンフェルナンド・バレーを舞台にした『ブギーナイツ』では、郊外の不毛な生活のなかで母親から負け犬呼ばわりされるエディが、ポルノ映画の監督にスカウトされ、スターとなると同時に擬似家族のような絆を見出していく。そして、新作の『マグノリア』でも、家族とショービジネスが結びつけられている。

 この映画では、サンフェルナンド・バレーに暮らす12人の人物たちの一日が描かれる。それぞれに心に傷を抱えた彼らは、まさに虚構を生きているといえる。愛よりもテレビのプロデューサーとしての成功を選んだ老人は死の床にあり、彼を憎む息子は別人となってマチズモ(男性優位主義)の教祖を演じ、注目を浴びている。長寿クイズ番組の名物司会者は癌の宣告に動揺しながらも生放送の番組で司会をつづけ、彼を憎む娘はドラッグに溺れている。かつての天才クイズ少年は過去の栄光にすがり、現役の天才少年はいままさに屈辱にまみれようとしている。


◆スタッフ◆
 
監督/脚本/製作   ポール・トーマス・アンダーソン
Paul Thomas Anderson
撮影 ロバート・エルスウィット
Robert Elswit
編集 ディラン・ティチェナー
Dylan Tichenor
音楽 ジョン・ブライオン
Jon Brion
 
◆キャスト◆
 
フランク・T・J・マッキー   トム・クルーズ
Tom Cruise
ジミー・ゲイター フィリップ・ベイカー・ホール
Philip Baker Hall
クローディア メローラ・ウォルターズ
Melora Walters
アール・パートリッジ ジェイソン・ロバーズ
Jason Robards
リンダ・パートリッジ ジュリアン・ムーア
Julianne Moore
ジム・カーリング ジョン・C・ライリー
John C. Reilly
フィル・パルマ フィリップ・シーモア・ホフマン
Philip Seymour Hoffman
ドニー・スミス ウィリアム・H・メイシー
William H. Macy
スタンリー・スペクター ジェレミー・ブラックマン
Jeremy Blackman
-
(配給:日本ヘラルド)
 

 『マグノリア』は、ロバート・アルトマン監督の『ショート・カッツ』に通じるポリフォニック(多声的)な構造を持っている。そんなドラマのポイントになるのは、家族とショービジネスだが、この映画では、『ブギーナイツ』の擬似家族とは対照的に、断ち切ることができない過去としての家族の絆が描き出される。

 登場人物たちは、ショービジネスの世界で名声と金を得ると同時に、崩壊した家族という過去から目を背けるためにその虚構の世界に逃避してもいる。しかし、そんな虚構に現実が重くのしかかる。死を覚悟した老プロデューサーは、献身的な看護師に息子を探してほしいと頼む。癌を宣告された司会者は、娘に会いにいく。

 彼らの溝はあまりにも深く、修復不可能に見えるが、このドラマには、奇妙なプロローグが暗示してもいるように、何かが起こる予感が漂っている。渇いた気候の土地には珍しく、雨の予報が流れ、サンフェルナンド・バレーは土砂降りに見舞われる。そしてさらに、空からとんでもないものが降り注ぐとき、虚構に逃避していた登場人物たちは、自分の素顔と向き合い、崩壊した家族にささやかな希望が生まれる。


(upload:2014/12/03)
 
 
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