マルコヴィッチの穴
Being John Malkovich


1999年/アメリカ/カラー/112分/ドルビーデジタル
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(初出:日本版「HARPER'S BAZAAR」2000年10月号、若干の加筆)

 

 

人間がただの入れ物と化す時代

 

 マンハッタンに建つビルの7と1/2階にある会社に就職した売れない人形遣い。彼はある日、キャビネットの裏に奇妙な穴を発見する。穴を抜けると、そこはなんと俳優ジョン・マルコヴィッチの頭のなかだった…。

 ミュージック・ビデオやCMの世界で活躍してきたスパイク・ジョーンズは、この劇映画デビュー作でいま最も注目される監督となった。誰もが15分だけマルコヴィッチになれる穴をめぐり、思いもよらない世界が広がるこの作品は、決して奇抜で笑えるだけの作品ではない。

 この映画の冒頭近くには、主人公と同業の人形遣いが、エミリ・ディキンスンの巨大な人形を操るパフォーマンスで世間の注目を集めるエピソードが盛り込まれている。この19世紀の女性詩人はその作品のなかで、自己の内面に向かって開拓者精神を発揮することを求め、 さらには、自己という王国を外敵から守るのはたやすいが、己という内なる敵には無防備であるため、意識を征服しなければならないと詠った。そんな人物の人形が他人に操られている光景に、この映画の主題を見ることができる。

 マルコヴィッチにとって内なる敵はもはや己ではない。他人が勝手に押し入り、彼を征服しようとするからだ。その”穴”を奪い合う人々の姿は、現代をという時代を象徴している。誰も内面など探求する気はない。肝心なのは自分がどう見えるかなのだ。 彼らにとってこの俳優は、金儲けや刺激的なセックスなどの欲望を満たすための人形であり、絶対にマルコヴィッチである必要すらない。


◆スタッフ◆

監督
スパイク・ジョーンズ
Spike Jonze
脚本/製作総指揮 チャーリー・カウフマン
Charlie Kaufman
製作総指揮 マイケル・カーン
Michael Kuhn
製作 マイケル・スタイプ/サンディ・スターン/スティーヴ・ゴリン/ヴンセント・ランディ
Michael Stipe/Sandy Stern/Steve Golin/Vincent Landay
撮影 ランス・アコード
Lance Acord
編集 エリック・ザンブランネン
Erick Zumbrunnen
音楽 カーター・バーウェル
Carter Burwell

◆キャスト◆

クレイグ・シュワルツ
ジョン・キューザック
John Cusack
ロッテ・シュワルツ キャメロン・ディアス
Cameron Diaz
マキシン キャスリーン・キーナー
Katherine Keener
ドクター・レスター オースン・ビーン
Orson Bean
フローリス メアリ・ケイ・ブレイス
Mary Kay Place
ジョン・マルコヴィッチ ジョン・マルコヴィッチ
John Malkovich
チャーリー チャーリー・シーン
Charlie Sheen

(配給:アスミック・エース)


 というよりも適当な人形さえあれば、目先の金や快楽以前に永遠の命すら夢ではない。実際この映画には、肉体から肉体へと移り住み、生き長らえる人々まで登場する。こうして人間は遺伝子を運ぶただの入れ物と化していくのである。


(upload:2001/02/03)
 
 
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