さらに、もうひとつのボディランゲージとして見逃せないのが、子どもが持つ破壊的な衝動だ。ジョーンズのPVの根底にあるのは、現実や常識を覆すような破壊的な衝動だといえる。『かいじゅうたち〜』には、そんな衝動が鮮明に描き出されている。
映画の冒頭で、孤独なマックスは、奇声を発しながらペットの犬を追いかけまわす。マックスとキャロルは、言葉ではなく球体の家を壊すという行動を通して接近し、絆を育んでいく。王様のマックスは、かいじゅうたちの間に生じた不協和音を泥ダンゴ合戦で解消しようとする。しかし、映画が物語るように、破壊的な衝動で問題が解決するわけではない。マックスが壁を乗り越えるためには、自己を見つめ、内側から変わらなければならない。
■■二面性とパラレルワールド■■
そこで注目したいのが、ジョーンズの劇映画に共通するふたつの要素だ。彼の映画の主人公たちは、二面性を持っている。『マルコヴィッチの穴』では、マルコヴィッチの穴の発見によって、クレイグ、ロッテ、マキシンという主人公たちの隠れた一面が露になり、彼らの間で裏切りが繰り返されていく。『アダプテーション』(02)でニコラス・ケイジが二役をこなす双子の脚本家は、悲観主義と楽観主義の二面性を象徴している。さらに映画の終盤では、もうひとりの主人公オーリアンのもうひとつの顔が暴きだされる。『かいじゅうたち〜』のマックスは、孤独な少年と王様のふたつの顔を持ち、次第にそのバランスを失っていく。
もうひとつの共通点は、パラレルワールドだ。ビョークの“It’s Oh So Quiet”のPVでは、歌の部分は現実世界でコーラスの部分はファンタジーになる。『マルコヴィッチの穴』では、クレイグやロッテがマルコヴィッチのなかに入ることによって、それぞれがもうひとつの世界を持ち、複数の世界が絡み合っていく。『アダプテーション』では、カウフマン兄弟とオーリアンのふたつの物語が、接点を持ちながら並行して語られ、最後に交差する。『かいじゅうたち〜』では、マックスが持っているおもちゃとかいじゅうたちの家、クレアとマックスという姉弟の関係とKWとキャロルの関係、雪合戦と泥ダンゴ合戦などを通して、現実世界とかいじゅうたちの世界がパラレルな関係にある。
そして、マックスが本来の自己を受け入れ、二面性とパラレルな世界から脱却するとき、彼と他者の関係はこれまでとは違ったものになっている。
■■ストリート・カルチャーを愛する少年像■■
一方で、この『かいじゅうたち〜』には、これまでのジョーンズの劇映画には見られなかった要素が盛り込まれている。『マルコヴィッチの穴』と『アダプテーション』は、脚本家チャーリー・カウフマンとのコラボレーションで、奇想天外なカウフマンの発想や世界観が強烈な印象を残すが、『かいじゅうたち〜』では、ジョーンズの世界がより前面に押しだされている。
彼の生い立ちと映画には接点があるように思われる。ジョーンズ(本名:アダム・スピーゲル)の両親は、彼が2歳のときに離婚した。アダムと姉は母親に引き取られ、母子はニュージャージーやフィラデルフィアに移り住んだあと、メリーランド州にあってワシントンD.C.の郊外になる町に落ち着いた。『かいじゅうたち〜』のマックスの家庭環境には、アダムの少年時代が投影され、ジョーンズにとってパーソナルな作品になっているのではないか。
ここでそんなジョーンズの少年時代を、年代は異なるが同じようにサバービア(郊外住宅地)で育ったスティーヴン・スピルバーグやティム・バートンのそれと対比してみるのも面白いのではないだろうか。スピルバーグやバートンは、画一的なサバービアのなかで孤立し、想像の世界を構築し、やがて監督になった。そんな彼らは少年時代に関わるパーソナルな作品を撮っている。
スピルバーグは『E.T.』(82)について、「『E.T.』のあの家は、ぼくが育った家そのものだ。かわいらしい少女ガーティは、ぼくの3人の妹たちを融合させたものなんだ」(※1)と語っている。バートンは『シザーハンズ』について、「これまで、ぼくは自分の感情を完全に表現する機会を一度も与えられたことはなかった。この映画は、映像で自己確認を初めてやれた作品だった」(※2)と語っている。
少年時代のジョーンズは想像の世界を構築するのではなく、BMXやスケートボード、そしてストリート・カルチャーを見出した。『かいじゅうたち〜』で、マックスとかいじゅうたちが疾走する姿には、ストリート体験の高揚を感じる。ジョーンズにとってこの映画は、スピルバーグやバートンにとっての『E.T.』や『シザーハンズ』と同じ意味を持っているのではないだろうか。
※1 『The Steven Spielberg Story : The Man Behind the Movies』 Tony Crawley (Quill, 1983)より引用
※2 『シザーハンズ』プレスより引用 |