アンダーソンが実在のポルノ男優ジョン・ホームズにインスパイアされて作った『ブギーナイツ』では、高校を中退し、母親から負け犬呼ばわりされる若者エディが、皿洗いをしていたクラブでポルノ映画の監督ジャックにスカウトされ、スターになっていく。
『ランナウェイズ』の物語は、サンフェルナンド・ヴァレー出身で、バンドのヴォーカルだったシェリー・カーリーの自伝に基づいている。奔放で身勝手な母親と酒に溺れる父親という、壊れかけた家庭に暮らし、鬱屈した日々を送っていたシェリーは、クラブでやり手のプロデューサー、キム・フォーリーにスカウトされ、ランナウェイズが結成され、大きな注目を集めていく。
サンフェルナンド・ヴァレーは戦後いち早く郊外化が進み、アメリカの夢の象徴になったが、荒廃するのも早かった。一方でこの地域は、ハリウッドをもじってヴァレーウッドと呼ばれた映画産業、ポルノ映画産業、テレビや音楽産業など、ショービジネスの世界に取り巻かれていた。だから、苦労することもなく、ちょっとしたきっかけで予想もしないチャンスに恵まれるようなことが起こる。しかし、チャンスをものにすることは、冷酷なシステムに取り込まれることも意味する。
だから、この2本の映画では、サバービアの壊れた家族とショービジネスの世界が交錯していく。あるいは、壊れた家族とショービジネスの世界で生まれた擬似家族が対置されていく。
『ブギーナイツ』のエディは、有頂天になり、スターの座から引き下ろされてはじめて、ポルノ映画の世界でもうひとつの家族に属していたことに気づく。『ランナウェイズ』のシェリーもまた、血のつながった家族とバンドという擬似家族の狭間で葛藤を強いられ、エディとは異なる道を歩んでいくことになるのだ。 |