ロドリゴ・ガルシアの新作『愛する人』では、37年前に引き離された母と娘を軸に物語が展開していく。老母を介護しつつ理学療法士として働く51歳のカレンは、過去を悔やむ日々を送っている。14歳で妊娠、出産したものの、母親に反対され娘を手放さざるをえなかったからだ。
一方、37歳の敏腕弁護士エリザベスは、養女という過去が心の傷になっているのか、定着や安定を拒む奔放な生活を送っている。そんな母と娘は、予期せぬ出来事や巡り合わせによって人生の転機を迎える。
ロドリゴのコメントによれば、この作品は構想から脚本の完成までに10年が費やされているという。彼はこれまで複数の物語で構成された独自の表現で女性たちの心情を描き出してきたが、そうした過去の作品と新作には明らかに深い結びつきがある。
たとえば、5つの物語から成るデビュー作『彼女を見ればわかること』は、第5話のヒロインが自殺した旧友の遺体と対面するプロローグから時間を遡り、生前の彼女がどの物語にもわずかながら姿を見せる。その旧友が死を選ぶ理由は定かではないが、どこかでヒロインたちの心情と共鳴しているように感じられ、彼女の孤独や不安を垣間見る思いがしてくる。
完全に独立した9つの物語から成る『美しい人』では、起点と終点に呼応するように母と娘の絆が据えられ、9つの物語のテーマが若さや未来から母性や老いへと移行し、最後に死や喪失が受け入れられていく。
つまりこの監督は、短い物語を並べて様々な女性たちを描くだけではなく、時として個人という枠組みを超えて響き合うなにかをとらえようとしてきた。この新作には、そんなアプローチの到達点を見ることができる。
ロドリゴは『美しい人』の結末からさらにその先に踏み出す。それぞれに心を固く閉ざしてきたカレンとエリザベスを変えるのは死と生だ。カレンは老母を亡くすことで、娘を手放した「母親」から老母の娘に戻り、エリザベスは妊娠することで、母親に捨てられた「娘」から母親へと移行する。
呪縛を解かれたように逆の立場から過去を見つめ、心を開く彼女たちの想いは、他の母親や娘たちの想いと共鳴していく。そして生と死の境界を超える絆が生み出されるのだ。 |