アルバート氏の人生
Albert Nobbs  Albert Nobbs
(2011) on IMDb


2011年/アイルランド/カラー/113分/スコープサイズ/ドルビーデジタル
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(初出:Into the Wild 2.0 | 大場正明ブログ)

 

 

個人という枠組みを超えて
響き合い、引き継がれていくもの

 

 『彼女を見ればわかること』(99)や『美しい人』(05)、『愛する人』(09)を振り返ってみればわかるように、ロドリゴ・ガルシアは、基本的には自分で脚本を書き、監督するタイプのフィルムメーカーだ。例外は、アン・ハサウェイ主演の『パッセンジャーズ』(08)だが、やはり彼の独自の世界を描き出せる題材ではなかった。

 新作の『アルバート氏の人生』(11)もガルシアのオリジナルな企画ではないし、脚本にもタッチしていない。企画の出発点は、1982年にグレン・クローズが主役を演じ、オビー賞を獲得した舞台であり、この舞台に運命を感じたクローズは30年近くかけてその映画化にこぎつけた。ガルシアとは『彼女を見ればわかること』と『美しい人』で一緒に仕事をしていることもあり、彼に監督を依頼したのだろう。

 この作品は昨年の東京国際映画祭コンペ作品の試写で観たが(その時点では『アルバート・ノッブス』というタイトルだった)、ガルシアのオリジナルな企画ではないので正直なところそれほど期待はしていなかった。しかし映画からはガルシアの世界が浮かび上がってきた。

 舞台は19世紀アイルランドのダブリン。ホテルのウェイターとして働く主人公のアルバート・ノッブスには秘密がある。身寄りのない人間がひとりで生きていくため、14歳のときに性を偽って職を手に入れ、それ以来、男として孤独な人生を歩んできたのだ。しかし、同じような立場にありながら、自由に生きているペンキ職人ヒューバートを出会ったことがきっかけで、彼/彼女の心は揺れ出す。

 アルバートは、女性としてのアイデンティティを取り戻し、呪縛から解き放たれるのか。チップをこつこつ貯めてきた金で、自分の店を持つという夢を叶えられるのか。想いを寄せるホテルのメイド、ヘレンへの求婚は実を結ぶのか。それらがハッピーエンドになっても、悲劇的な結末を迎えても、それだけであれば筆者はあまり心を動かされなかっただろう。

 ガルシアは、個人としての女性の心情を繊細に描き出すだけではなく、ときとして個人という枠組みを超えて響き合うなにかをとらえようとしてきた。


◆スタッフ◆
 
監督   ロドリゴ・ガルシア
Rodrigo Garcia
脚本 ガブリエラ・プレコップ、ジョン・バンヴィル、グレン・クローズ
Gabriella Prekop, John Banville, Glenn Close
原作 ジョージ・ムーア
George Moore
撮影 マイケル・マクドノー
Michael McDonough
編集 スティーヴン・ワイズバーグ
Steven Weisberg
音楽 ブライアン・バーン
Brian Byrne
 
◆キャスト◆
 
アルバート・ノッブス   グレン・クローズ
Glenn Close
ヒューバート・ペイジ ジャネット・マクティア
Janet McTeer
ヘレン・ドウズ ミア・ワシコウスカ
Mia Wasikowska
ジョー・マキンス アーロン・ジョンソン
Aaron Johnson
ホロラン医師 ブレンダン・グリーソン
Brendan Gleeson
ヤレル子爵 ジョナサン・リス・マイヤーズ
Jonathan Rhys Meyers
ベイカー夫人 ポーリーン・コリンズ
Pauline Collins
キャスリーン ブロナー・ギャラガー
Bronagh Gallagher
ポーリー ブレンダ・フリッカー
Brenda Fricker
-
(配給:トランスフォーマー)
 

 たとえば、『美しい人』の9つの物語はそれぞれ独立しているように見えながら、実は若さから老いへと向かう流れがあり、相互に響き合い、母親と娘というモチーフが深められている。『愛する人』では、母親と娘が死という揺るぎない現実によって隔てられるが、他の母親や娘たちの想いと共鳴することで、生と死を超える絆が生み出される。

 この新作でもそんなガルシアならではの視点が印象に残る。アルバートという個人の運命が支配するドラマはいつしか消え去る。そして、このヒロインの存在がヒューバートやヘレンと響き合い、引き継がれていくような世界が浮かび上がってくるからだ。


(upload:2013/01/20)
 
 
《関連リンク》
『彼女を見ればわかること』(1999)レビュー ■
『美しい人』(2005)レビュー ■
『パッセンジャーズ』(2008)レビュー ■
『愛する人』(2009)レビュー ■
 
 
 
 
 
 
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