筆者がかつてダルデンヌ兄弟にインタビューしたとき、彼らはその共通点について以下のように語っていた。
「確かに私たちが撮影した地域とイギリスのある地方とはかなり似ているところがあります。20世紀を通じて工業化が進み、それに並行して労働運動が生まれ、歴史が作られてきました。そしてどちらも伝統的な工業が崩壊して、工場が閉鎖され、 生産拠点が移行し、労働運動が下火になった。とてもよく似ています」
そのイギリスでは最近、サッチャリズム以後の社会を見直し、失われた連帯を取り戻そうとするような動きや、連帯の意味を再確認しようとする映画などが目立つように思う。
まず、2013年11月にケン・ローチ監督の呼びかけから新しい左翼政党“Left Unity”が誕生した。時期を同じくしてローチが監督した『The Spirit of '45』(13)も公開された。それは、戦後の45年に誕生した労働党政権による福祉国家建設を回顧するドキュメンタリーだった。
さらに、ローチの新作劇映画『ジミー、野を駆ける伝説』(14)も、そんな活動の延長にあると見ることができる。この映画では、30年代初頭のアイルランドを舞台に、実在の左翼の活動家ジミー・グラルトンの物語が描かれるが、そのなかで最も印象に残るのは、ジミーが作る“ホール”の世界だ。そこは、抑圧された人々にとって重要な交流の場となる。ジミーはイデオロギーだけの堅物ではなく、芸術や娯楽をこよなく愛していたため、ホールでは、音楽やダンスと教育や政治が一体になり、求心力を生み出していく。ローチはそんな世界を、『The Spirit of '45』における戦後の労働者たちの連帯や現代における“Left Unity”と重ねている。
それから、マシュー・ウォーチャス監督の『パレードへようこそ』(14)やウベルト・パゾリーニ監督の『おみおくりの作法』(13)にも、共通する視点が見られる。実話に基づく『パレードへようこそ』では、サッチャー政権下の1984年の物語を通してサッチャリズムの時代を振り返り、炭鉱の町の住人とゲイの活動家たちの連帯が描き出される。かつて『フル・モンティ』(97)をプロデュースしたウベルト・パゾリーニが監督した『おみおくりの作法』では、もの言えぬ死者が弱者の代表と位置づけられ、弱者を通してサッチャリズム以後の社会を見直し、死者と生者の溝が埋められていく。
ダルデンヌ兄弟のこの『サンドラの週末』は、イギリスにおけるそんな労働者の連帯を見直そうとする動きと無関係ではない。しかしだからといって、新作で連帯を声高に訴えているわけではない。
ソーラーパネル工場で働いていたサンドラは、体調不良による休職から復帰しようとした矢先に解雇を告げられる。社員にボーナスを支給するためにはひとり解雇する必要がある、というのが経営者の言い分だ。しかし、親しい同僚のとりなしで週明けに16人の同僚による投票を行い、ボーナスを諦めて彼女を選ぶ者が過半数に達すれば復職が叶うことになる。そこで彼女は家族に励まされながら、週末に同僚を説得して回る。
ダルデンヌ兄弟はあえて労働組合がない中小企業を選び、社員たちを個人として向き合わせる。もし顔が見えない集団のなかにいれば、親友以外はボーナスを選択していただろう。しかしそのなかには、ボーナスを求めたことを恥じている人間もいる。さらには、サンドラの説得をきっかけに自分の人生そのものを見つめ直し、大きな決断を下す女性も現われる。
この映画で重要なのは必ずしも結果ではない。ダルデンヌ兄弟は、労働者の集団ではなく、個人の顔が見えてくる設定を通して、組合とは違う連帯の可能性を引き出してみせるのだ。 |