パレードへようこそ
Pride


2014年/イギリス/カラー/121分/スコープサイズ/ドルビーデジタル
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(初出:)

 

 

炭鉱の町の住人とゲイの活動家たちの戦いと連帯
サッチャリズムの時代をいま振り返ることの意味

 

[ストーリー] 1984年、サッチャー政権下の荒れるイギリス。始まりは、ロンドンに住む一人の青年のシンプルなアイデアだった。炭坑労働者たちのストライキに心を動かされ、彼らとその家族を支援するために、仲間たちと募金活動を始めたのだ。

 しかし、全国炭坑組合に何度電話しても、寄付の申し出は無視される。理由は一つ、彼らがゲイだから。炭坑組合にとって、彼らは別世界の住人でしかないのだ。そこへ、勘違いから始まって唯一受け入れてくれる炭坑が現れる! 寄付金のお礼にと招待された彼らは、ミニバスに乗ってウェールズ奥地の炭坑町へと繰り出すのだが──。[プレスより]

 舞台演出を中心に活躍するマシュー・ウォーチャス監督が、実話をもとに作り上げた『パレードへようこそ』は、かつて筆者が書いた「サッチャリズムとイギリス映画――社会の劇的な変化と映画の強度の関係」のテーマにぴたりとはまる作品といえる。この映画もまた、サッチャリズムの時代を背景に、社会やコミュニティと個人の関係を描き出すことによって活力や強度を獲得しているということだ。それにしても、炭鉱の町の住人とロンドンのゲイやレズビアンのグループが連帯するような出来事があったというのは驚きだった。

 この映画は、サッチャリズムを背景あるいは題材にしたこれまでの作品のなかでは、スティーヴン・ダルドリー監督の『リトル・ダンサー』と共通点がある。どちらも1984年に設定され、炭鉱の町が舞台になることには意味がある。

 この年、二期目に入ったサッチャー政権と全国鉱山労組は、炭鉱ストをめぐって文字通りの死闘を繰り広げた。この双方には歩み寄りの余地はほとんど残されていなかった。一年前の総選挙で再選されたサッチャーは、自由主義経済を推し進めるために、衰退産業への支援を打ち切り、労組の影響力を排除する必要があった。一方、総選挙で従来の社会主義路線を前面に出して敗れた野党勢力にとって、 全国鉱山労組は最後の砦となり、強硬な手段を行使する道を選んだ。

 2本の映画では、そんな切迫した状況のなかで、炭鉱の世界とは異質なものが、それぞれ内部と外部から現れる。『リトル・ダンサー』では、炭鉱育ちの少年が、クラシック・バレエに魅了され、ロイヤル・バレエ団を目指そうとする。『パレードへようこそ』では、ゲイとレズビアンのグループが炭鉱を支援するためにやって来る。


◆スタッフ◆
 
監督   マシュー・ウォーチャス
Matthew Warchus
脚本 スティーヴン・ベレスフォード
Stephen Beresford
撮影 タト・ラドクリフ
Tat Radcliffe
編集 メラニー・オリヴァー
Melanie Oliver
音楽 クリストファー・ナイチンゲール
Christopher Nightingale
 
◆キャスト◆
 
クリフ   ビル・ナイ
Bill Nighy
ヘフィーナ イメルダ・スタウントン
Imelda Staunton
ゲシン アンドリュー・スコット
Andrew Scott
ジョー ジョージ・マッケイ
George MacKay
マーク ベン・シュネッツァー
Ben Schnetzer
ダイ パディ・コンシダイン
Paddy Considine
ジョナサン ドミニク・ウェスト
Dominic West
マイク ジョセフ・ギルガン
Joseph Gilgun
ステフ フェイ・マーセイ
Faye Marsay
ジェフ フレディ・フォックス
Freddie Fox
-
(配給:セテラ・インターナショナル)
 

 炭鉱労働者の間にはホモソーシャルな連帯関係があり、それはホモフォビア(同性愛嫌悪)と表裏一体になっている。だからどちらの場合も、軋轢や対立が生まれるが、それを乗り越えていくことが深い感動に繋がる。『パレードへようこそ』では、そんな切迫した状況や他者との関係をめぐるドラマに、ひねりのきいたユーモアがちりばめられ、イギリスの新旧の俳優たちがそれぞれに個性を発揮しているため、心を揺さぶられる。

 だが、この映画の魅力は感動的なドラマだけではない。いまこの題材が映画化される意味も考えてみる必要がある。筆者は、ケン・ローチ監督の『ジミー、野を駆ける伝説』とこの映画には、現代社会に対して共通する視点が埋め込まれているように思う。

 ローチの『ジミー、野を駆ける伝説』は、この映画を作る前の彼の活動と無関係ではない。イギリスではローチの呼びかけによって、2013年11月に新しい左翼政党“Left Unity”が誕生した。また、その呼びかけに合わせて、ローチが監督したドキュメンタリー『The Spirit of '45』(13)も公開された。これは、第二次大戦後の45年に誕生した労働党政権による福祉国家建設の時代とその後のサッチャリズムによる社会の変貌を回顧する作品だった。

 ローチは明らかにそんな活動の延長にあるものとして『ジミー、野を駆ける伝説』を作っている。この映画では、30年代初頭のアイルランドを舞台に、実在の左翼の活動家ジミー・グラルトンの物語が描かれるが、そのなかで最も印象に残るのは、ジミーが作る“ホール”の世界だ。そこは、抑圧された人々にとって重要な交流の場となる。ジミーはイデオロギーだけの堅物ではなく、芸術や娯楽をこよなく愛していたため、ホールでは、音楽やダンスと教育や政治が一体になり、求心力を生み出していく。

 ローチはそんな世界を、『The Spirit of '45』における戦後の労働者たちの連帯や現代における“Left Unity”と重ねている。筆者は、この『パレードへようこそ』にもそんな視点が当てはまるのではないかと思う。ゲイとレズビアンのグループが、炭鉱の町の集会所で住人たちと対面したときには、当然のことながらよそよそしい空気が漂っている。しかし、ゲイのグループのひとりが、ロンドン仕込みのダンスによって住人たちを魅了することによって、空気が一変し、交流が始まる。そして後半では、炭鉱の女性たちからトラディショナル・ソングの合唱が始まり、他者を包み込んでいく。

 この映画から浮かび上がる連帯のイメージに、ローチと同じように現代社会が強く意識されていると思うのは、おそらく筆者だけではないだろう。


(upload:2015/03/23)
 
 
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