おみおくりの作法
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(2013) on IMDb


2013年/イギリス=イタリア/カラー/91分/
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(初出:)

 

 

死者=もの言えぬ弱者をどう扱うかで
どんな社会を生きているのかがわかる

 

[ストーリー] ロンドン市ケニントン地区の民生係、ジョン・メイ。ひとりきりで亡くなった人を弔うのが彼の仕事。事務的に処理することもできるこの仕事を、ジョン・メイは誠意をもってこなしている。しかし、人員整理で解雇の憂き目にあい、ジョン・メイの向かいの家に住んでいたビリー・ストークが最後の案件となる。

 この仕事をしているにもかかわらず、目の前に住みながら言葉も交わしたことのないビリー。ジョン・メイはビリーの人生を紐解くために、これまで以上に熱意をもって仕事に取り組む。そして、故人を知る人々を訪ね、イギリス中を旅し、出会うはずのなかった人々と関わっていくことで、ジョン・メイ自身も新たな人生を歩み始める――。[プレスより]

 プロデューサーとして『パルーカヴィル』や『フル・モンティ』といった作品を手がけてきたウベルト・パゾリーニにとって、『おみおくりの作法』は、2008年の『マチャン(原題)/Machan』につづく監督第二作になる。

 パゾリーニの監督作には共通点がある。スリランカを主な舞台とする『マチャン(原題)』では、港湾都市コロンボのスラムでどん底の生活を送る男たちが、なんとかして豊かなヨーロッパで働くために一計を案じる。ドイツのバイエルンで開催されるハンドボールのトーナメントのことを知った彼らは、それがどんなスポーツかも知らないのに、偽のチームを作って招待を受け、ドイツに向かって飛び立つ。

 『おみおくりの作法』では、主人公ジョン・メイの仕事を通して、ほとんど誰にも知られることなくこの世から消えていく死者の世界に触れることになる。

 パゾリーニは他者をテーマにし、他者を通してこの世界を見直そうとする。その他者は弱者に置き換えられる。特に『おみおくりの作法』では、高齢者でも障害者でも低所得者でもなく、もの言えぬ死者が弱者の代表と位置づけられる。最も弱い者をどう扱っているかで、私たちがどんな世界を生きているのかがわかる。ジョン・メイの後任は、官僚制に埋没した人物で、死者に敬意を払うこともなく、機械的に処理していく。上司はその効率を評価している。

 では、これまで死者に敬意を払ってきたジョン・メイは、ビリー・ストークを弔うという最後の仕事を通してなにを見出すのか。そこにはふたつのポイントがある。


◆スタッフ◆
 
監督/脚本/製作   ウベルト・パゾリーニ
Uberto Pasolini
撮影監督 ステファーノ・ファリヴェーネ
Stefano Falivene
編集 トレイシー・グレンジャー、ガヴィン・バックリー
Tracy Granger, Gavin Buckley
音楽 レイチェル・ポートマン
Rachel Portman
 
◆キャスト◆
 
ジョン・メイ   エディ・マーサン
Eddie Marsan
ケリー ジョアンヌ・フロガット
Joanne Froggatt
メアリー カレン・ドルーリー
Karen Drury
プラチェット氏 アンドリュー・バカン
Andrew Buchan
ジャンボ キアラン・マッキンタイア
Ciaran McIntyre
シャクティ ニール・ディスーザ
Neil D’Souza
ホームレスの男 ポール・アンダーソン
Paul Anderson
ホームレスの男 ティム・ポッター
Tim Potter
-
(配給:ビターズ・エンド)
 

 まず注目したいのは、旅に出たジョン・メイが出会うホームレスの男たちだ。ビリー・ストークと彼らは、フォークランド紛争のときの戦友であることがわかる。フォークランド紛争はマーガレット・サッチャーが政治的な求心力を獲得するために利用した戦争でもあり、パゾリーニは、サッチャリズムによるコミュニティの崩壊が現在の孤独死に繋がっていることを示唆している。

 筆者はここで、彼がプロデュースした『フル・モンティ』が、サッチャリズムとコミュニティの関係を扱っていたことを思い出していた。ちなみに、筆者が来日したパゾリーニにインタビューしたとき、彼はサッチャーの発言をさり気なく引用し、コミュニティの崩壊に繋がるような政策を批判していた。

 さらにもうひとつ、より重要で深い意味を持つのが、生者と死者の関係だ。これまで、家族も友人もなく、孤独というよりは静かな生活を送ってきたジョン・メイは、旅のなかで生きた人間と絆を培っていく。これは悪いことではないが、もしそれだけで終わっていれば、弱者としての死者に目を向けた意味は薄れていただろう。なぜなら映画が結果的に、この世の物語、生者中心主義にとどまることになるからだ。しかし、パゾリーニは、思いもよらない結末を準備することで、生者中心主義から脱却してみせる。この脚本は実に素晴らしい。


(upload:2015/01/13)
 
 
《関連リンク》
ウベルト・パゾリーニ・インタビュー 『おみおくりの作法』 ■
ウベルト・パゾリーニ 『マチャン(原題)/Machan』 レビュー ■
ピーター・カッタネオ 『フル・モンティ』 レビュー ■
パディ・コンシダイン 『思秋期』 レビュー ■
サッチャリズムとイギリス映画―社会の急激な変化と映画の強度の関係 ■

 
 
 
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