世界各国の映画祭で好評を博している『おみおくりの作法』の主人公は、ロンドン南部、ケニントン地区の公務員ジョン・メイ。身寄りや引き取り手がいない死者をひとりで弔うのが仕事だ。彼はこれまで死者に敬意を払い、誠意をもって取り組んできたが、役所の整理統合によって解雇が決まる。ジョン・メイは、最後の案件となる故人ビリー・ストークが、目と鼻の先に住んでいながら何も知らなかったことにショックを受け、故人を知る人々を探してイギリス中を旅することになる。
この映画が長編第二作となるウベルト・パゾリーニ監督の経歴はユニークだ。イタリア出身で、海外に出て投資銀行家として地位を築いた後に映画界に進出。まずプロデューサーとしてあの『フル・モンティ』などを手がけ、初監督作品『マチャン(英題)/Machan』(08/未)をスリランカで撮っている。
「ミラノの少年時代にはシネマテークに通いつめましたが、映画はあくまで趣味だと考えていました。銀行では成功を収めましたが、最年少でディレクターの地位が約束された時に、このままでは一生抜けられなくなると思って辞めました。私は何かに興味を持つとそれを追いかけ、もっと知ろうとします。最初の監督作の時には、スリランカに行ったこともなかったのですが、ニュース配信で目にした記事に興味を持ち、リサーチをして、現地に1年滞在して映画を作りました。この新作も新聞記事がきっかけで、最初は社会的な関心からリサーチを始めたのですが、どんどん個人的な関心に変わり、自分が他者とどう関われるのかを深く考えるようになりました」
この映画でまず印象に残るのは、死者に対する視点だ。一般的に弱者といえば、障害者や低所得者、子供などを連想するが、パゾリーニは死者を弱者と位置づけている。
「この企画を始めてからそういう考え方がより明確になりました。最も弱い者をどう扱っているのかが、その社会をはかる物指になります。ジョン・メイの後任の女性のように、敬意も払うことなく遺灰を処理すれば、そういう姿勢は社会に蔓延し、困難な状況にある人々への扱いが自己中心的なものになります。政府が個人主義を奨励するあまり、コミュニティがばらばらになってしまいましたが、ジョン・メイのように仕事をしてくれる人がいれば心配はないでしょう」 |