『イタリアは呼んでいる』(14)のヒットも記憶に新しいマイケル・ウィンターボトムが、スキャンダラスな注目を集めた殺人事件を題材にして作り上げた新作『天使が消えた街』(14)のオリジナル・サウンドトラックです。
[ストーリー] 2011年、イタリア・トスカーナ州シエナの街は、ある裁判の話題で持ちきりだった。4年前にイギリス人留学生エリザベスが殺害され、世界的な関心を呼んだ事件の控訴審が始まろうとしているのだ。この事件の映画化をオファーされた気鋭の監督トーマス・ラングは、リサーチのために現地に乗り込むが、そこで彼が目の当たりにしたのは大衆向けに扇情的な報道を繰り返すメディアの実態だった。
はたして被告のセクシーなアメリカ人留学生ジェシカは、本当にエリザベスを殺したのか。その真偽が不確かな状況のもと、制作上の迷いに苦しむトーマスは、天真爛漫な女子学生メラニーの励ましに心癒され、被害者エリザベスとその遺族に寄り添った映画を作ろうと決意する。やがてその試みは、離婚した妻との間で愛娘の親権を争っているトーマス自身の行き詰まった人生にも変化をもたらすのだった――。[プレスより]
サウンドトラックを手がけているのは、ロンドンを拠点に活動するイギリス人の作曲家ハリー・エスコット。ウィンターボトムとは、『グアンタナモ、僕達が見た真実』(06)、『マイティ・ハート/愛と絆』(07)でも組んでいます。他に、『ハード・キャンディ』(05)、『SHAME―シェイム―』(11)、『ビトレイヤー』(13)などの音楽を手がけています。
映画の題材は、2007年にイタリアで起こり、世界の注目を集めたペルージャ英国人女子留学生殺人事件。ウィンターボトムは実話をそのまま映画化するのではなく、登場人物の名前や舞台となる街を変更し、トーマスという架空の主人公を創造し、独自の世界を構築しています。
この映画では音楽が重要な役割を果たしています。ドラマは緻密で複雑な構造になっていますが、突き詰めればウィンターボトムがやろうとしているのは、死者の尊厳を守り、遺族の悲しみに目を向けるということです。それを踏まえてサウンドトラックに耳を傾けると、これがレクイエムになっていることに気づくと思います。
また、ここでマイケル・ナイマンのことを思い出してもいいと思います。ウィンターボトムは、『ひかりのまち』(99)と『いとしきエブリデイ』(12)でナイマンと組み、『9Songs』(04)にはナイマンのステージが挿入されています。そのナイマンの音楽の本質はレクイエムであるといえます。だから、この新作は、ナイマンと組んでもおかしくないところですが、エスコットがどこかナイマンを連想させないでもないレクイエムをしっかりと作り上げているのです。筆者は非常に気に入っています。映画のオープニングとエンディングで、特に音楽が光っています。
|