SHAME―シェイム―
Shame  Shame
(2011) on IMDb


2011年/イギリス/カラー/101分/シネマスコープ/ドルビーデジタル
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(初出:月刊「宝島」2012年4月号、若干の加筆)

 

 

セックス依存症という檻と他者の痛みをめぐって

 

 かつてフランス文学界の話題をさらったミシェル・ウエルベックの小説『素粒子』では、“アメリカに起源を持つセックス享受型大衆文化”がテーマのひとつになっていた。主人公のブリュノはそれにどっぷり漬かり、変質者といわれても仕方がない行為の数々で自分を慰めていた。

 イギリス映画界の新鋭スティーヴ・マックィーンの新作『SHAME‐シェイム‐』では、ニューヨークを舞台にそんなセックス依存症の世界が赤裸々に描き出される。

 エリート社員を思わせる主人公ブランドンは、仕事以外の時間をすべてセックスに注ぎ込んでいる。自宅にデリヘル嬢を呼び、アダルトサイトを漁り、ウェブカメラによるセックスチャットにのめり込む。バーで出会った女と真夜中の空き地で交わり、地下鉄で向かいに座る女が思わせぶりな仕草を見せると、ホームまで追いかける。

 だが、そんなブランドンのマンションに妹が転がり込んできたことで、状況が一変する。セックスを中心に回ってきた彼の世界はバランスを失い、その肉体と心は、欲望とこれまで封印してきた感情の狭間で引き裂かれていく。彼が、シンガーである妹の歌を聴いて、不覚にも涙する場面は、微妙な感情を見事に表現している。

 『素粒子』のブリュノにはセックスにとらわれるような暗い過去があった。しかしこの映画では、ブランドン(と妹)の過去は明確にはされず、観客の想像に委ねられている。というよりも、彼の過去や依存症になった原因は必ずしも重要ではない。

 マックイーンが関心を持っているのは、“檻”に囚われた人間だといえる。これまで自分の生活を完全にコントロールし、閉ざされた世界を生きてきたブランドンは、依存症を意識することがなかった。ところがそんな彼の世界に他者の眼差しが割り込んでくる。

 会社に出社すると、ウイルスが原因でパソコンが回収されている。その原因は、彼がアダルトサイトを漁っていたことだと思われる。ウイルスが駆除されたパソコンが戻ってきたとき、彼は上司からハードディスクが汚れていると指摘される。そこはまさに変態の世界になっていた。


◆スタッフ◆
 
監督/脚本   スティーヴ・マックィーン
Steve McQueen
脚本 アビ・モーガン
Abi Morgan
撮影 ショーン・ボビット
Sean Bobbitt
編集 ジョー・ウォーカー
Joe Walker
音楽 ハリー・エスコット
Harry Escott
 
◆キャスト◆
 
ブランドン   マイケル・ファスベンダー
Michael Fassbender
シシー キャリー・マリガン
Carey Mulligan
デイヴィッド ジェームズ・バッジ・デール
James Badge Dale
地下鉄の女 ルーシー・ウォルターズ
Lucy Walters
マリアンヌ ニコル・ベーハリー
Nicole Beharie
-
(配給:ギャガGAGA)
 

 そして、妹の存在がダメ押しとなる。彼はプライベートな世界が妹という他者の視線にさらされることで、自分が依存症という檻に囚われていることを自覚する。だが、身の周りからスキンマグやアダルトビデオ、パソコンなどセックスに関わるものをすべて排除しても、精神の檻からは容易に抜け出せるわけではない。

 自分から女性の同僚をベッドに誘いながら屈辱を味わった彼は、その直後にデリヘル嬢を呼び欲望を吐き出す。ガラス張りの部屋は見えない檻を象徴している。彼がそれを抜け出すためには、視線を自分ではなく外に向けるしかない。おそらくは自分の妹も恋愛依存症でリストカッターであることに彼が気づくとき、出口が見えてくることになるだろう。


(upload:2014/02/06)
 
 
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