マイク・ギャングロフにその才能を見出され、ドローン・ミュージックを志向するペルトやアパラチアン・マウンテン・ミュージックに新たな光をあてるブラック・トゥイグ・ピッカーズ で活動し、スティーヴ・ガンやヒス・ゴールデン・メッセンジャー らと共演してきた注目のバンジョー奏者/マルチインストゥルメンタリスト、ネイサン・ボウルズ 。『ナンセモンド/Nansemond』(14)は、2012年のソロ・デビュー作『ア・ボトル、ア・バックアイ』 につづく待望のソロ第2弾です。ヴァージニア州サフォークで育ったボウルズがどのように頭角を現してきたのかは前作のレビューで書きました。
音楽と土地、地域性や場所性の関係に強い関心を持つ筆者が、このアルバムでまず注目したいのはタイトルの“Nansemond”です。これは、先住民の部族名に由来するヴァージニア州の地名です。ナンセモンド川の流域で生活していたナンセモンド族が起源になっているということです。ただし、ボウルズにとって重要だったのは、川の名前としてのナンセモンドだったようです。ボウルズはサフォークで育ったと書きましたが、彼によれば、その地域はもともとより大きなナンセモンド郡の一部で、50年代にサフォーク郡に改名されたとのことです。そして彼が暮らした家のそばをナンセモンド川が流れていました。
このアルバムのジャケットに使用された写真を見ると、どのような風景が広がっていたのかある程度、想像できます。さらに、前作のジャケットでは、岩と清流の写真が使用されていましたが、あれもおそらくナンセモンド川のものではないでしょうか。ボウルズが新作にナンセモンドというタイトルをつけたことには、深い意味があります。
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ボウルズには、子供の頃のいろいろな個別の記憶がないそうです。込み入った事情があって、それらを排除してしまったようです。しかし、この数年で彼の人生が変化していくなかで、少年時代や自分が育った場所について考えるようになりました。彼が曲を作ることも、記憶をたどろうとすることと深く結びついています。
また、ドイツの小説家/作家W・G・ゼーバルトの作品『アウステルリッツ』からも大きな影響を受けているようです。記憶、トラウマ、地理学へのアプローチがインスピレーションをもたらしているということです。具体的には、死者と生者が同一の空間に存在するとういうような世界観ですが、ボウルズは、音楽を通して既成の境界を越えるような世界を切り拓こうとしているように思えます。
このアルバムでも、アパラチアン・ミュージックの伝統とミニマル/ドローン・ミュージックの狭間に、独自の空間を切り拓こうとする基本的な方向性は前作と変わっていませんが、このようなボウルズ個人に関わる内的な葛藤や模索と深く結びついているため、その表現は格段に進化/深化しています。
◆Jacket◆
◆Track listing◆
01.
Sleepy Lake Bike Club
02.
The Smoke Swallower
03.
Jonah/Poor Liza Jane
04.
Chuckatuck
05.
J.H. For M.P.
06.
Golden Floaters/Hog Jank
07.
Sleepy Lake Tire Swing
◆Personnel◆
Nathan Bowles - vocals, banjo, piano, tapes; Joe Dejarnette - acoustic guitar (5); Tom Carter - acoustic guitar (2,4), electric guitar (2,4); Steve Kruger - fiddle, voice (5);
(Paradise of Bachelors)