ナチュラル・インフォメーション
/ ジョシュア・エイブラムス
Natural Information / Joshua Abrams (2010)


 
line
(初出:)

 

 

北アフリカの弦楽器ゲンブリが生み出す磁場と空間
ナチュラル・インフォメーション・ソサエティの出発点

 

 ショシュア・エイブラムスは、90年代後半からシカゴを拠点に、ジャズ、ロック、エレクトロニックなど様々なジャンルのミュージシャンと交流を持ち、ミニマリスティックなサウンドを指向するカルテット、タウン・アンド・カントリー、そしてマタナ・ロバーツ、チャド・テイラーとトリオ、スティックス・アンド・ストーンズなどを結成し、異彩を放ってきたベーシストです。

 そんなエイブラムスは、北アフリカの伝統音楽グナワで使われる弦楽器ゲンブリと出会うことで、新たな世界を切り拓いています。ゲンブリが生み出すサウンドが彼に強い印象を残したのは、モロッコのグナワ音楽の第一人者マリーム・マフムッド・ガニアの楽団にファラオ・サンダースが加わったアルバム『ザ・トランス・オブ・セブン・カラーズ/The Trance of Seven Colors』(94)だったようです。

 ゲンブリに関心を持っていたエイブラムスは98年に2、3週間ほどモロッコに滞在し、そこでで現物を目にし、わずかながら演奏法を学び、アメリカに持ち帰りました。それからこの楽器に対する試行錯誤をつづけていくことになりますが、そのときに関心を持ち、エイブラムスを励ましたのがドラマーのハミッド・ドレイクでした。ドレイクは、ペーター・ブロッツマンのライブ・アルバム『Wels Concert』(97)で、ゲンブリを弾くマフムッド・ガニアと共演していたので、彼の励ましには説得力があったのではないかと想像されます。

 ドレイクに力づけられたエイブラムスはさらにゲンブリ習得に打ち込むようになり、フレッド・アンダーソンとハミッド・ドレイクが再会を果たしたアルバム『フロム・ザ・リバー・トゥ・ジ・オーシャン』(07)で、ベースとともにゲンブリも演奏することになりました。


◆Jacket◆
 
◆Track listing◆

01.   Mysterious Delirious Fluke Of The Beyond
02. Abide In Sunset
03. Dolphin Cave Dazzling
04. Cabin
05. In Ex Or Able
06. A Lucky Stone
07. Sound Talisman
08. Represencing

◆Personnel◆

Josh Abrams - dulcimer (1), guimbri (2,6,7,8), sampler (2,6), harmonium (2,6), bass (3,5), bells(3,4,5), kora[donso unoni], synthesizer (4); Ben Boye - autoharp (7,8); Frank Rosaly - drums (2,6,7,8); Noritaka Tanaka - drums (3,5); Lisa Alvarado - gong, harmonium (7,8); Emmett Kelly - guitar (2,6,7,8); Jim Baker - synthesizer (7.8);

(Eremite Records)
 

 このレコーディングを行ったことで、エイブラムスのヴィジョンはより明確なものになり、彼の創作のなかでゲンブリが重要な位置を占めるようになります。 『ナチュラル・インフォメーション』はそのヴィジョンが具体化されたアルバムといえます。エイブラムスは、ゲンブリの他にも、ダルシマー、ハルモニウム、ベース、コラ、シンセサイザー、サンプラーなどをこなし、マルチインストゥルメンタリストとしての魅力を放っていますが、サウンドの中核を担っているのはあくまでゲンブリです。

 エイブラムスがゲンブリを弾いているのは、全8曲のうちの4曲ですが、実はその4曲が演奏時間が圧倒的に長く、アルバムの大半を占めているといっても過言ではありません。特に、7、8、9はライブ・レコーディングで、パーカッシブな要素も持ち合わせるゲンブリの特徴がよく表れています。筆者は特に7の<Sound Talisman>を聴いて、はるか昔に生で見た韓国のサムルノリのサウンドを思い出しました。エイブラムスは、このアルバムを出発点として、タイトルを引き継いだナチュラル・インフォメーション・ソサエティというユニットで、この独自のサウンドを発展させていきます。

 

(upload:2016//)
 
 
《関連リンク》
Joshua Abrams : Natural Information | Eremite Records
The Panoramic Songscape: Joshua Abrams'
Natural Information Society | St. Louis Magazine
Joshua Abrams & Nathan Bowles: Memory,
texture, and tradition | BOMB magazine
ジョシュア・エイブラムス 『ミュージック・フォー・
ライフ・イッツセルフ & ジ・インターラプターズ』 レビュー
■
ジョシュア・エイブラムス 『マグネトセプション』 レビュー ■
ジョシュア・エイブラムス 『レプレゼンシング』 レビュー ■
フレッド・アンダーソン&ハミッド・ドレイク
『フロム・ザ・リバー・トゥ・ジ・オーシャン』 レビュー
■
ネイサン・ボウルズ 『ナンセモンド』 レビュー ■
ネイサン・ボウルズ 『ア・ボトル、ア・バックアイ』 レビュー ■

 
 
 
amazon.co.jpへ●
 
ご意見はこちらへ master@crisscross.jp