ミュージック・フォー・ライフ・イッツセルフ & ジ・インターラプターズ / ジョシュア・エイブラムス
Music for Life Itself & The Interrupters / Joshua Abrams (2015)


 
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(初出:)

 

 

スティーヴ・ジェームズ監督作品のための2本のサントラ
評論家ロジャー・イーバートと非暴力の活動家たちのシカゴ

 

 ショシュア・エイブラムスは、90年代後半からシカゴを拠点に、ジャズ、ロック、エレクトロニックなど様々なジャンルのミュージシャンと交流を持ち、ミニマリスティックなサウンドを指向するカルテット、タウン・アンド・カントリー、そしてマタナ・ロバーツ、チャド・テイラーとトリオ、スティックス・アンド・ストーンズなどを結成し、異彩を放ってきたベーシストです。

 なかでも特に近年では、北アフリカの伝統音楽グナワで使われる弦楽器ゲンブリを中心に据えたのユニットであるナチュラル・インフォメーション・ソサエティでの活動が際立っています。このユニットに関わる作品として、『ナチュラル・インフォメーション』(10)、『レプレゼンシング』(12)、『マグネトセプション』(15)という3枚のアルバムをリリースしています。

 『ミュージック・フォー・ライフ・イッツセルフ & ジ・インターラプターズ』(15)は、2本のドキュメンタリー映画のためにエイブラムスが作ったサントラを1枚にまとめたアルバムです(厳密にいうと3本です。23曲目の<Theme from A Place Called Pluto>は、2本とは別の短編映画の音楽です)。

 監督は、日本でも公開された94年のドキュメンタリー『フープ・ドリームス』でよく知られるスティーヴ・ジェームズ。これは、シカゴ郊外の貧困地域に暮らし、NBAのスターを夢見るふたりの少年の栄光と挫折を鮮やかに描き出した素晴らしい作品でした。

 エイブラムスがサントラを担当した2本の作品の1本は、映画評論家ロジャー・イーバートの足跡を回顧する『Life Itself』。▼予告の前半部分に流れているのがテーマ曲<Roger's Theme>で、チューバ、トロンボーン、トランペットという管楽器を使い、ブラスバンドのスタイルを生かした軽快なサウンドにまとめられています。イーバートといえば、「シカゴ・サンタイムズ」で、サントラはジャズやブルースを通してシカゴのイメージを表現しています。往年のクール・ジャズにインスパイアされたホーンのアンサンブルが印象に残ります。

『グローリー―明日への行進―』(14)で大きな注目を集めた女性監督エヴァ・デュヴァネイもイーバートの思い出を語っています。イーバートが彼女のデビュー作『I Will Follow』(10)を高く評価していたのを筆者も記憶しています。実際、とてもいい映画でしたが――。

 そして、もう1本は、シカゴのコミュニティで働く非暴力の活動家たちのグループを題材にした『The Interrupters』(11)。エイブラムスはこちらでは、アコースティックとエレクトリックのベースのほかに、ピアノ、オルガン、ドラム、パーカッションなどもこなしています。どちらの映画も、シカゴを拠点に活動するエイブラムスに相応しい題材だと思います。全部で43曲が収録されているので、当然1曲の演奏時間が短くなりますが、細切れという印象は受けませんでした。


◆Jacket◆
 
◆Track listing◆
 
Life Itself
01.   Roger's Theme
02. CWA
03. Corliss Debate
04. Chaz's Theme
05. A Machine for Empathy
06. Not So Jolly
07. Argument
08. Illness
09. The Hot Sun Was Streaming Through the Windows
10. P Kael
11. Publishing & Memory
12. Ava's Story
13. Chicago
14. O'Rourke's
15. Professional Enemies
16. Daily Illini
17. After Hours Colloquy
18. Shelf of the Mind
19. Polymathic Genius
20. Morning Walk in Cannes
21. Because They Look Happy (Chaz reprise)
22. Roger's Theme (Intro)
   
23. Theme from A Place Called Pluto
 
The Interrupters
24.   Introduction to The Interrupters
25. Street Chess
26. Shootouts
27. Guns, Drugs, Party, Fun
28. Cobe Memory
29. Inside a Flea
30. Not Right Now
31. Ameena's Theme
32. Shrines
33. Eddie Memory
34. I Think Tears Was Comin'
35. Eddie Memory (reprise)
36. Fenger Peace Summit
37. The Ones Telling the Story
38. Spring
39. Scattered to the Winds
40. National Guard Meeting
41. Hope for the Future
42. Now
43. Mourning

◆Personnel◆

Life Itself: Josh Abrams - acoustic and electric bass, piano, Rhodes, guitar, harmonium; Rashida Black - harp; Ben Boye - piano, pianet; Ari Brown - tenor saxophone; Hamid Drake - drums; Tony Herrera - trombone; Marquis Hill - trumpet; James Sanders - violin, viola; Joshua Sirotiak - tuba;
A Place Called Pluto: Josh Abrams - acoustic bass, piano; Emmett Kelly - electric guitar; Frank Rosaly - drums;
The Interrupters: Josh Abrams - acoustic and electric bass, MPC1000, piano, Wurlitzer, drums, percussion; Jason Adasiewicz - vibraphone; David Boykin - bass clarinet; Nicole Mitchell - flutes; Jeff Parker - electric guitar; Tomeka Reid - cello;

(Eremite Records)
 

 

 

(upload:2016/04/04)
 
 
《関連リンク》
Joshua Abrams : Music for Life Itself & The Interrupters
| Eremite Records
The Panoramic Songscape: Joshua Abrams'
Natural Information Society | St. Louis Magazine
Joshua Abrams & Nathan Bowles: Memory,
texture, and tradition | BOMB magazine
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