マグネトセプション / ジョシュア・エイブラムス
Magnetoception / Joshua Abrams (2015)


 
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(初出:)

 

 

エイブラムスのゲンブリ習得に貢献したドレイクの参加
深化するミニマル/ドローン/トランス・ミュージック

 

 北アフリカの伝統音楽グナワで使われる弦楽器ゲンブリを中心に据えたショシュア・エイブラムスのユニット、ナチュラル・インフォメーション・ソサエティ。『マグネトセプション/Magnetoception』は、『ナチュラル・インフォメーション』(10)、『レプレゼンシング/Represencing』(12)につづく第3弾です。エイブラムスの簡単なプロフィールと、彼がどのようにゲンブリに関心を持ち、習得し、ユニットを作るに至ったかについては、『ナチュラル・インフォメーション』のレビューでまとめてあります。

 ナチュラル・インフォメーション・ソサエティは、ドン・チェリーのオーガニック・ミュージック・ソサエティを意識してつけたユニット名で、そのサウンドの影響も受けています。また、ナチュラル・インフォメーションは、現代の世界においてエイブラムスが関心を持つふたつの要素を結びつけた表現でもあります。

 このアルバムが、前2作と大きく違うのは、なんといってもハミッド・ドレイクが参加していることです。98年にモロッコを訪れ、ゲンブリを手に入れたエイブラムスが、この楽器を自分のものにして使っていくか迷っていたときに、彼を励ましたのがドレイクでした。ドレイクは、ペーター・ブロッツマンのライブ・アルバム『Wels Concert』(97)で、ゲンブリを弾くモロッコのグナワ音楽の第一人者マフムッド・ガニアと共演していたので、エイブラムスの挑戦に可能性を感じていたのでしょう。

 ゲンブリを使ったエイブラムスの最初のレコーディングも、フレッド・アンダーソンとハミッド・ドレイクが再会を果たしたアルバム『フロム・ザ・リバー・トゥ・ジ・オーシャン』(07)でした。そのなかで彼がゲンブリを弾いているのは、4曲目のタイトルナンバー<From the River to the Ocean>と5曲目の<Sakti / Shiva>です。その演奏とこのアルバムを比較してみると、エイブラムスがナチュラル・インフォメーション・ソサエティの活動を通してどのように変貌を遂げたのかがよくわかります。ドレイクはこのアルバムでは、フレーム・ドラム、タブラ、コンガなどを叩いています。エイブラムスはクラリネットを吹いたりもしています。前作よりもアンビエントなサウンドが意識されているようにも思えます。

 また、ナチュラル・インフォメーション・ソサエティの方向性に興味を持たれた方にぜひ聴いてみていただきたいのが、ヴァージニア州出身のバンジョー奏者/マルチインストゥルメンタリスト、ネイサン・ボウルズの2枚のソロ・アルバム『ア・ボトル、ア・バックアイ』(12)と『ナンセモンド』(14)です。


◆Jacket◆
 
◆Track listing◆

01.   By Way of Odessa
02. Lore
03. Of Night
04. Broom
05. Translucent
06. Of Day
07. Magnetoception
08. Spiral Up
09. The Ladder

◆Personnel◆

Josh Abrams - guimbri, bass, celeste, clarinet, small harp, bells; Hamid Drake - frame drum, tabla, conga, trap kit; Emmett Kelly - electric guitar; Jeff Parker - electric guitar; Lisa Alvarado - harmonium; Ben Boye - chromatic electric autoharp;

(Eremite Records)
 

 エイブラムスとボウルズのキャリアには接点があるわけではありませんが、その方向性は非常によく似ています。エイブラムスのゲンブリとクローハンマー奏法を駆使するボウルズのバンジョーには、どちらも弦楽器にパーカッシブな要素があり、ナラティブな音楽とは違う、瞑想的で、ミニマル/ドローン/トランス/アンビエントなサウンドスケープを切り拓いています。

 ボウルズはかなりのレコード・コレクターで、下のショート・ドキュメンタリーは興味深いです。彼の部屋には、エイブラムスのアルバム『レプレゼンシング』が置かれ、実際にレコードをかけて、エイブラムスが演奏するゲンブリについてコメントしています。

 

(upload:2016/04/04)
 
 
《関連リンク》
Joshua Abrams : Magnetoception | Eremite Records
The Panoramic Songscape: Joshua Abrams'
Natural Information Society | St. Louis Magazine
Joshua Abrams & Nathan Bowles: Memory,
texture, and tradition | BOMB magazine
ジョシュア・エイブラムス 『ミュージック・フォー・
ライフ・イッツセルフ & ジ・インターラプターズ』 レビュー
■
ジョシュア・エイブラムス 『レプレゼンシング』 レビュー ■
ジョシュア・エイブラムス 『ナチュラル・インフォメーション』 レビュー ■
フレッド・アンダーソン&ハミッド・ドレイク
『フロム・ザ・リバー・トゥ・ジ・オーシャン』 レビュー
■
ネイサン・ボウルズ 『ナンセモンド』 レビュー ■
ネイサン・ボウルズ 『ア・ボトル、ア・バックアイ』 レビュー ■

 
 
 
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