幸せのありか
Chce sue zyc / Life feels good  Chce sie zyc
(2013) on IMDb


2013年/ポーランド/カラー/107分/スコープサイズ/5.1デジタル
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(初出:)

 

 

自由を奪われた他者=観察者を通して世界を見る

 

[ストーリー] 1980年代、ポーランド民主化へと大きく揺れ動いた時代、幼いマテウシュは知的障害と言われ、身体にも重度の障害があり、家族ともコミュニケーションがままならない。しかし、実際の彼は健常者と同じように悩む、ロマンチックな心の持ち主だった。

 医師から“植物のような状態”と言われたマテウシュだったが、家族の愛情を受け多感な子供時代を過ごす。心から愛を注いでくれた父の突然の死――。しかし、父から教わった星空を見上げる歓びを忘れることはなかった。向かいのアパートに住む少女への淡い恋、日々の寂しさを忘れる共に過ごす時間、突然訪れる別れ。そして成長と共に家族から疎まれてゆく。ある日姉は結婚を期に、彼を病院に入れてしまう。憤りと不満で母や看護師にあたる日々だったが、美しい看護師マグダが現れ、マテウシュは彼女と心を通わせるようになってゆく――。[プレスより]

 長編デビュー作『Drzazgi/Splinters(英題)』(08・未)で、ヒューストン国際映画祭シルバーレミー賞、ポーランド劇映画祭(現・グディニア映画祭)最優秀長編デビュー作品賞を受賞したマチェイ・ピェブシツア監督の長編第二作です。主人公マテウシュを演じているのは、パヴェウ・パヴリコフスキ監督の『イーダ』(13)に出演していたダヴィド・オグロドニクです。まさに迫真の演技です。

 レビューのテキストは準備中です。とりあえず感想を書いておきます。

 映画の冒頭には「この物語は実話に基づいている」という断りがあり、エンド・クレジットにはモデルとなった人物の画像も映し出されますが、実話を忠実に再現しようとするような作品ではありません。

 この映画では、医師から“植物のような状態”と診断されたマテウシュの目から見た世界が描かれます。彼は話すことができませんが、映画では心の声を通して饒舌に語ります。そのマテウシュの眼差しには、社会をまったく異なる視点からとらえようとするピェブシツア監督の姿勢が反映されています。


◆スタッフ◆
 
監督/脚本   マチェイ・ピェブシツア
Maciej Pieprzyca
撮影 パヴェウ・ディルス
Pawel Dyllus
編集 クシシュトフ・シュペトマンスキ
Krzysztof Szpetmanski
音楽 バルトシュ・ハイデツキ
Bartosz Chajdecki
 
◆キャスト◆
 
マテウシュ   ダヴィド・オグロドニク
Dawid Ogrodnik
マテウシュ(少年時代) カミル・トチカ
Kamil Tkacz
マテウシュの父 アルカディウシュ・ヤクビク
Arkadiusz Jakubik
マテウシュの母 ドロタ・コラク
Dorota Kolak
マグダ カタジナ・ザヴァツカ
Katarzyna Zawadzka
ヨラ アンナ・ネフベツカ
Anna Nehrebecka
-
(配給:アルシネテラン)
 

 物語のポイントになるのは80年代の民主化です。マテウシュという他者を通してみると、それが誰のためにあり、なにを意味するのかを考えさせられます。

 映画の後半、家族から見放され、病院で鬱屈した日々を送るマテウシュは、彼の心に寄り添うような美しい看護師マグダに出会います。マグダはマテウシュにとって天使のような存在になりますが、彼女には別の顔があります。そこには利己的な社会を垣間見ることができます。

 そして、登場人物のなかで異彩を放つのが、民主化の盛り上がりのなかであっけなくこの世を去ってしまうマテウシュの父親の存在です。なぜか天文の分野に詳しい父親は、マテウシュと夜空の星を見上げながら、「星は止まって見えるが、本当は違うんだ。ケンカみたいに動き回ってる。でも俺たちの目では追いかけられん」と語ります。

 この言葉には心に響くものがあります。マテウシュは、植物のような状態に見えても、そのなかでは豊かで激しい感情がうねっているからです。


(upload:2014/12/01)
 
 
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