[ストーリー] 1999年1月、ワルシャワ。ヴィスワ川を捜索していた警察が、2体の遺体を引き上げる。シートにくるまれた遺体は、全裸で首が切断されていた。
物語はそんなプロローグから3ヶ月前にさかのぼる。起業家を目指す親友の若者アダムとステファンは、イタリアからスクーターを輸入して一旗揚げようと目論むが、銀行から融資が得られない。そんなとき、ステファンが偶然、古い友人ゲラルドに出会う。羽振りのよさそうなビジネスマンになっていた彼は、融資の仲介を引き受ける。
だが間もなく、ゲラルドが本性を現す。融資が得られないのに、法外な費用を要求してくるのだ。実は彼は冷酷非情な取立て屋で、強面の手下を引き連れ、彼らばかりか、恋人や家族にも危害を及ぼそうとする。アダムとステファンは恐怖に怯え、どこまでも追い詰められていく。
実話に基づくクシシュトフ・クラウゼ監督の『借金』(99)は、筆者にダニー・ボイル監督の『シャロウ・グレイヴ』(95)を思い出させる。『シャロウ・グレイヴ』では、サッチャリズムによって急激な変化を遂げる社会のなかで、時代を象徴する利己的な性格を持つ若者たちと、市場主義の陰で麻薬取引が生み出す大金が出会ってしまい、悪夢のようなスパイラルが巻き起こる。
この『借金』では、共産主義から資本主義への過渡期、社会の基盤や制度がまだ時代の変化に適応していない時代に、起業という野心を持つ若者たちと、金のためなら手段を選ばず、どこまでも人の弱みに付け込んでくるギャングが出会ってしまい、悪夢のスパイラルのなかで人間性が揺らいでいく。
クラウゼ監督は、カメラを低い位置に置いたり、傾けたり、手持ちカメラで人物を追うことによって、閉塞感や緊張感に満ちたリアルな世界を生み出している。 |