[ストーリー] アメリカ人の作家トムは、別れた妻と娘に会うためパリにやってくる。だが、アパートを訪ねたものの、妻からは拒絶され、警察まで呼ばれてしまう。トムはアパートの前で、警察が駆けつける前に、学校から戻ってきた娘と言葉を交わし、仕方なくそこから逃げ出す。バスに飛び乗った彼は、そのまま寝込んでしまい、気づいてみれば荷物も財布も盗まれている。バスがたどり着いたのは移民が多く暮らす地域で、彼はカフェ兼安ホテルのオーナーに相談し、部屋を借りることに。
トムは生活費をなんとかするために、オーナーから紹介された怪しげな警備員の仕事を引き受ける。ある日、書店に立ち寄った彼は、この作家の顔を知っていた店主から言葉をかけられ、文人が集まるパーティに招待される。そこで作家の妻だった女性マーギットに出会った彼は、彼女のアパートで心が安らぐひと時を過ごすようになる。だがやがて、彼の周りで奇妙な出来事や事件が起こりだし、彼も警察に連行されてしまう。
ポーランド出身のパヴェウ・パヴリコフスキ監督、イーサン・ホーク、クリスティン・スコット・トーマス共演の『イリュージョン』は、賛否がはっきりと分かれる作品だ。おそらく不満を覚える人の方が圧倒的に多いだろう。主人公トムの周りで奇妙な出来事や事件が次々と起こるのに、謎がなにも解き明かされないまま映画が終わってしまうからだ。
原作は、ダグラス・ケネディの『The Woman in the Fifth』。ケネディの小説については、最近はご無沙汰だが、初期の頃はよく読んでいた。
たとえば、『The Dead Heart』(94)。あまりやる気のないアメリカ人の新聞記者ニックが、オーストラリア北部のダーウィンから不毛の土地を南下し、ヒッチハイクの娘アンジーと仲良くなる。だが、旅の途中でニックが朦朧とした状態から目覚めてみると、彼は見知らぬ町にいる。実はアンジーにクスリを打たれて町まで運ばれ、すでに彼女との結婚式まですませたという。その町は、かつて鉱山の閉山とともに無人になり、地図から削除されたが、その後で離散した家族、親戚が舞い戻り、カンガルーの肉を売りさばくルートを基盤として秘密の楽園を築いていた。そこから一番近い町までは車で16時間もかかり、脱出するのは不可能に近い。
それから『The Big Picture/ビッグ・ピクチャー』(97/98)。ウォール街の法律事務所に勤め、妻子と郊外で豊かな生活を送るように見える主人公ベンは、かつて憧れた写真家になる夢を捨てきれずにいる。ある日、妻が近所に住む自称写真家ゲイリーと不倫していることを知った彼は、男の家に乗り込み、彼を殺してしまう。窮地に立たされたベンは、悩んだあげくある計画を思いつく。ゲイリーの死体をヨットごと爆破して自分が自殺したように見せかけ、ゲイリーとなって旅立つということだ。放浪の果てに彼は写真を撮りはじめ、やがて大きな成功を手にすると同時に、危険な立場へと追い込まれていく。 |