――でも、実際の映画は自宅の周辺だけで撮れるものにはなっていませんね。
「私が怠け者だったから天罰が下ってしまったのだ。どういうことかというと、映画を煮詰めていくうちに、この映画には雪がなくてはだめだといことに気がついた。ポーランドでは雪が降るという保証はない。どか雪が降ることもあれば、まったく降らないこともある。本当は周辺だけで作りたかったがそれは無理だ。それでノルウェーと合作ということになった。ノルウェーなら雪がたくさんある。天罰で、−35℃という非常に過酷な状況で撮影することになってしまった」
――雪を必要としたのは過酷なサバイバルを描きたかったからですか。
「もちろん過酷な状況のなかで生き延びなければならないということもあるが、主人公が中近東の人間であることを想定していて、そういう人間にしてみれば雪は初めての体験になり、残酷な環境のなかに急に放り込まれてしまったという感じも出したかった。それと背景の美しさ、自然の美しさというものをうまく見せたかった」
――この映画では自然が重要な要素になっていますが、生活のなかで自然に対する認識が変わったということはありますか。
「私は深い森のなかで暮らしているが、そこに住めば住むほど自然というものがどんどん好きになっていく。若いときにはそういうことはなかった。特に都会にいると、雑音があったり、時間が早く過ぎてあわただしい。森のなかでは時間がゆっくりと流れ、自分がもっと集中することができ、もっと奥深いものになっていけるような気がする。自然のなかにいると毎日、学ぶことが多く、この年齢になって好きになっていることは確かだ」
――主人公に台詞を喋らせないというアイデアは最初から考えていたことなのでしょうか。言葉を媒介としないことで、肉体の動きが多くを語ると同時に、人間と自然や動物の関係も濃密なものになるように思いますが。
「その通り、正しい答えだ。逆に主人公に台詞を与え、アラビア語や英語を喋らせれば情報を与えすぎることになる。できるかぎり曖昧なかたちで進めたかった」===>2ページに続く |