イエジー・スコリモフスキ・インタビュー
Interview with Jerzy Skolimowski


2011年 渋谷
エッセンシャル・キリング/Essential Killing――2010年/ポーランド=ノルウェー=アイルランド=ハンガリー/カラー/83分/ヴィスタ
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――情報が限定され、曖昧なかたちで進むということは、多様な解釈を生み出すことにもなりますね。

「観客が自由に想像できるというのには一理ある。しかし同時にリアルな部分もある。さっき言った滑走路のことだ。犯罪者が中近東からリトアニアやポーランド、ルーマニアなどに護送されているらしい。それを意識していたので、非常に現実的な要素も含まれている」

――あなたは映画の世界に復帰する前に、絵画に力を入れていたわけですが、絵画の表現が映画に影響を及ぼすということはありますか。

「芸術的な世界を描く、あるいは想像の世界という点では共通しているが、それだけであとはまったく違うものだと思う。絵画というのは、時間からなにからすべてをコントロールできる。一人になって好きなように時間を使い、好きなように想像するものをキャンバスに描ける、いわば禅のような心境になって。映画というのはたくさんの人間がからんで、好きなように進めるのは不可能だ。絵画に関しては妥協はしない、でも映画はそういうわけにはいかない。金銭的な背景もあり、自分が百パーセントまではコントロールできない。想像力をたくましくして芸術的な作品を作るだけだ」

――あなたは、ミカ・カウリスキマキの『GO! GO! L.A.』(98)で、俳優としてヴィンセント・ギャロと共演していますが、その頃から何らかの付き合いがあったのでしょうか。

「確かに12年前に共演したのが最初で、親友というわけではなく、なにかのパーティとかそういう場で挨拶をする程度だった。だが、2年前のカンヌ映画祭で、彼が主演したフランシス・フォード・コッポラ監督の『テトロ 過去を殺した男』を観て、劇場を出たときに、私の前を彼が歩いていて、その姿が動物的な感じがした。野生動物のようで、ピンとくるものがあり、声をかけた。脚本を持っているというと、読みたいというので渡した。それからホテルに戻って2時間くらいしたら電話がきて、やりたい、絶対にやらなくてはいけないと。しかも、ぼくはバッファローの出身で、雪のなかをいつも裸足で走っていたと大袈裟に自分を売り込んできた。だからヴィンセントに、まだ5月で、早くでも撮影に入るのは12月になるので、それまでに髪と髭を伸ばしておいてくれと頼んだ」

 

 



――ヴィンセントはコントロール・フリーク(ヴィンセント・ギャロ・インタビュー参照)を自認していまが。

「もちろん私は監督なので、すべてをコントロールする立場にあるし、すべての面を考え抜いて書いた脚本で、それを承知して受けてくれたわけで、そういう部分での対立はいっさいなかった。とはいえ零下35℃のなかで逃げ回るだけに、精神的にも苦痛はあったと思う。できるだけ苦痛を感じさせないように努力はしたが、心地よい仕事ではなかっただろう。それ以外はなにも問題はなかった」

――ヴィンセント・ギャロがたまたま通りかかった母親の母乳を吸うシーンが、すごくシュールで印象に残りました。

「あのシーンは、ぽっと浮かんで書き足したものだ。そもそもシュールなシーンがとても好きなのだが、あまりやりすぎるは好きではない。シュールを全面に出して映画を作りたいとは思わない。なにかシュールでビザールな要素をリアルなもののなかに盛り込むことは意識している」

――雪に覆われた森を彷徨うこの異邦人の姿には、故郷を喪失したディアスポラとしてヨーロッパやアメリカを転々としてきたあなた自身を垣間見ることができます。

「そう、その通りだ。どこまで出すかが難しいところだが、私の思いであるとか実体験というものが、なんらかのかたちで表れていることは間違いない」

――動物は過去も未来もなくその瞬間を生きていると思います。主人公は最終的にどこでもないところに出て、瞬間を生きるような動物性に目覚めていくと見ることもできると思うのですが。

「そうだな、その通りだと思う。要は死が近づいているということで、死ぬときにはそうなっていくのだろう」

 
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(upload:2013/01/30)
 
 
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