[ストーリー] 6歳の少年ステフェクは、母親と年の離れた姉エルカとワルシャワ郊外の田舎町で暮らしている。彼には自分たちを捨てて出ていった父親の記憶はないが、姉からもらった落書きだらけの父親の写真を大事にしている。ある日、駅でひとりの男性を見かけたステフェクは、父親に違いないと確信し、様々なトリックを仕かけて彼を母親のもとに誘導しようとするが――。
ポーランドの異才アンジェイ・ヤキモフスキの長編第2作『トリック』(07)には、デビュー作『目を細めて』(03)で示された人生哲学が、実に見事に引き継がれている。
『目を細めて』の舞台は、ポーランドの僻地にある共産主義時代の遺物の廃農場で、都会の生活に疲れた元教師が番人をしている。そこにかつての教え子だった10歳の少女が転がり込んでくる。彼女は都会で裕福な生活を送る両親と折り合えずに家出し、廃農場で元教師やそこに集まる変わり者たちと過ごすことになる。
少女は現状を打破するために、直接行動に出た。しかし、廃農場というアジール(解放区)に逃げ込んだからといって問題が解決するわけではない。少女は、自然に囲まれ、時間がゆったりと流れる農場で過ごすうちに、観察力や想像力を身につけていく。そして、自分のなかにアジールを切り拓く。
『トリック』のドラマを興味深いものにしているのは、ステフェクと姉の考え方の違いだ。ステフェクは問題を解決するのに、常に直接行動に出ようとする。これに対して、姉は観察力を働かせ、自分以外の力を活用しようとする。
たとえば、ステフェクはハンバーガーを食べ終えた後でゴミを公園の屑入れに投げ込む。姉は残ったハンバーガーが入った袋を屑入れの外に置く。するとそれが人から人へと渡り、中身も処理されて、最終的に屑入れに収まる。リンゴがさっぱり売れない露天商を見かけたとき、ステフェクは自分でリンゴを買うが、姉はあるマジックで完売に導く。
この映画ではそんなやりとりが、父親らしき人物を誘導する方法に影響を及ぼしていく。ステフェクが徐々に観察力を身につける様子は、鳩のエピソードを通して表現される。彼は、老人が飼う鳩の群れが、老人が指を鳴らせば飛び立つのに、自分がやっても反応がないことにこだわり、観察と試行錯誤を繰り返していく。 |