コングレス未来学会議
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(2013) on IMDb


2013年/イスラエル=ドイツ=ポーランド=ルクセンブルク=フランス=ベルギー/英語/カラー/120分/DCP・BD
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(初出:「CDジャーナル」2015年6月号)

 

 

現実と幻想の境界が不確かな近未来の多層的空間
フォルマン監督は私たちの世界を見事に異化する

 

[ストーリー] 2014年、ハリウッドは、俳優の絶頂期の容姿をスキャンし、そのデジタルデータを自由に使い映画をつくるというビジネスを発明した。すでにキアヌ・リーブスらが契約書にサインしたという。40歳を過ぎたロビン・ライトにも声がかかった。

 はじめは笑い飛ばした彼女だったが、旬を過ぎて女優の仕事が激減し、シングルマザーとして難病をかかえる息子を養わなければならない現実があった。悩んだすえ、巨額のギャラと引き換えに20年間の契約で自身のデータを売り渡した。スクリーンでは若いままのロビンのデータが、出演を拒んできたSF映画のヒロインを演じ続けた――。

 そして20年後、文明はさらなる進歩を加速させていた。ロビンはある決意を胸に、驚愕のパラダイスと化したハリウッドに再び乗り込む。[プレスより]

[イントロダクション] イスラエル出身、『戦場でワルツを』(08)で世界的な注目を集めたアリ・フォルマン監督の新作です。原作は、『惑星ソラリス』の原作『ソラリスの陽のもとに』でよく知られるポーランドのSF作家スタニスワフ・レムの『泰平ヨンの未来学会議』。原作の主人公ヨンは宇宙航海士/探検家ですが、映画は舞台を近未来のハリウッドに置き換え、独自の世界が切り拓かれています。サントラは、フォルマンの『戦場でワルツを』のほか、『サラの鍵』(10)、『さよなら、アドルフ』(12)、『少女は自転車にのって』(12)、『ディス/コネクト』(13)などのマックス・リヒターが手がけています。

 プロデューサーにも名を連ねるロビン・ライトが本人役で主演。彼女のマネージャー、アルをハーヴェイ・カイテル、難病の息子アーロンを『ザ・ロード』(09)、『モールス』(10)、『猿の惑星:新世紀』(14)で注目されるコディ・スミット=マクフィー、ドクター・バーカーを『WIN WIN ダメ男とダメ少年の最高の日々』(11)、『それでも夜は明ける』(13)のポール・ジアマッティ、大手スタジオ、ミラマウント社のジェフ・グリーンを『21グラム』(03)、『ビッグ・アイズ』(14)のダニー・ヒューストンが演じています。

[以下、本作のレビューになります]

 『戦場でワルツを』アリ・フォルマン監督の新作『コングレス未来学会議』では、女優ロビン・ライトが本人役で数奇な運命をたどるヒロインを演じている。この映画に描かれる2014年のハリウッドでは、俳優の容姿をスキャンし、そのデジタルデータで自由に映画を作るビジネスが成長し、旬を過ぎたロビンにも声がかかる。


◆スタッフ◆
 
監督/脚本   アリ・フォルマン
Ari Folman
原作 スタニスワフ・レム
Stanislaw Lem
アニメーション監督 ヨニ・グッドマン
Yoni Goodman
撮影監督 ミハウ・アングレール
Michal Englert
編集 ニリ・フェレー
Nili Feller
音楽 マックス・リヒター
Max Richter
 
◆キャスト◆
 
ロビン・ライト   ロビン・ライト
Robin Wright
アル ハーヴェイ・カイテル
Harvey Keitel
ディラン・トゥルーリナー(声) ジョン・ハム
Jon Hamm
ドクター・バーカー ポール・ジアマッティ
Paul Giamatti
アーロン・ライト コディ・スミット=マクフィー
Kodi Smit-McPhee
ジェフ・グリーン ダニー・ヒューストン
Danny Huston
サラ・ライト サミ・ゲイル
Sami Gayle
-
(配給:東風+gnome)
 

 難病の息子を抱えるシングルマザーでもある彼女は、悩んだ末に20年間の契約で自身のデータを売り渡し、スクリーンでは若返ったロビンがスターの座に返り咲く。そして20年後、自身の運命を決めるべく驚愕の変貌を遂げたハリウッドに乗り込んだロビンは、暴力革命に巻き込まれ、時空を超えた世界を彷徨うことになる。

 この映画では『戦場でワルツを』と同じようにアニメと実写が大胆に組み合わされている。物語は実写で始まり、20年後にロビンがハリウッドに乗り込むところでアニメに変わり、さらに終盤で実写が効果的に挿入される。しかし前作から引き継がれているのは、独特のスタイルだけではない。

 フォルマン監督自身の戦争体験に基づく『戦場でワルツを』では、82年に19歳で従軍したレバノン侵攻の記憶が失われていることに気づいたフォルマンが、戦友たちを訪ね歩き真相に迫っていく。そんな物語とこの新作の題材はまったく関係のないもののように見えるが、実は深く結びついている。

 レバノン侵攻とは、これまで犠牲者だったユダヤ人が虐殺の加害者になった戦争であり、記憶の欠落の背景には癒しがたい心の傷があった。しかし、人々が現実から目を背け、逃避するようなことが起こるのは、過酷な戦場だけではない。

 『コングレス未来学会議』で新たな娯楽を探求しつづけるハリウッドは、化学薬品によって自分がなりたい者になれる新薬を開発する。そして、暴力革命に巻き込まれて治療不可能な病に侵され、凍結処理されたロビンが、長い眠りから目覚めるとき、世界は大きく変わっている。彼女の周りでは、薬の力で誰もが自由に生きている。

 しかし、ロビンは、息子を探し出すために幻覚を消し去り、向こう側へと踏み出すことによって、現実を目の当たりにする。フォルマン監督はそんな物語を通して私たちが生きる世界を見事に異化している。


(upload:2015/06/29)
 
 
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