難病の息子を抱えるシングルマザーでもある彼女は、悩んだ末に20年間の契約で自身のデータを売り渡し、スクリーンでは若返ったロビンがスターの座に返り咲く。そして20年後、自身の運命を決めるべく驚愕の変貌を遂げたハリウッドに乗り込んだロビンは、暴力革命に巻き込まれ、時空を超えた世界を彷徨うことになる。
この映画では『戦場でワルツを』と同じようにアニメと実写が大胆に組み合わされている。物語は実写で始まり、20年後にロビンがハリウッドに乗り込むところでアニメに変わり、さらに終盤で実写が効果的に挿入される。しかし前作から引き継がれているのは、独特のスタイルだけではない。
フォルマン監督自身の戦争体験に基づく『戦場でワルツを』では、82年に19歳で従軍したレバノン侵攻の記憶が失われていることに気づいたフォルマンが、戦友たちを訪ね歩き真相に迫っていく。そんな物語とこの新作の題材はまったく関係のないもののように見えるが、実は深く結びついている。
レバノン侵攻とは、これまで犠牲者だったユダヤ人が虐殺の加害者になった戦争であり、記憶の欠落の背景には癒しがたい心の傷があった。しかし、人々が現実から目を背け、逃避するようなことが起こるのは、過酷な戦場だけではない。
『コングレス未来学会議』で新たな娯楽を探求しつづけるハリウッドは、化学薬品によって自分がなりたい者になれる新薬を開発する。そして、暴力革命に巻き込まれて治療不可能な病に侵され、凍結処理されたロビンが、長い眠りから目覚めるとき、世界は大きく変わっている。彼女の周りでは、薬の力で誰もが自由に生きている。
しかし、ロビンは、息子を探し出すために幻覚を消し去り、向こう側へと踏み出すことによって、現実を目の当たりにする。フォルマン監督はそんな物語を通して私たちが生きる世界を見事に異化している。 |