[ストーリー] シリアとの国境に近いトルコ南東部にある街マルディン。1915年、妻と双子の娘たちと平穏に暮らしていたアルメニア人の鍛冶屋ナザレットを悲劇が襲う。街の男たちはトルコ軍によって、砂漠に道を作る強制労働に駆り出される。その後、ナザレットの仲間たちは、トルコ軍の指揮官に殺害されるが、彼は九死に一生を得る。だが、妻子を含む同胞がトルコ軍によって虐殺されたことがわかる。
頼るあてもなく彷徨っていたナザレットは、ムスリムの商人に拾われ、アレッポで無為な日々を送る。ところがそこで、鍛冶屋の頃の弟子に偶然出会い、妻が殺害される前に娘たちをベドウィンの一家に託したことを知る。ナザレットはシリアやレバノンの孤児院を訪ね歩き、娘たちを探す旅は、彼を遠く、キューバ、アメリカへと導いていく。
『消えた声が、その名を呼ぶ』(14)は、トルコ系ドイツ人のファティ・アキン監督の新作です。『愛より強く』(04)の“愛”、『そして、私たちは愛に帰る』(07)の“死”に続いて“悪”を扱う三部作の最終章になります。1915年に起きたトルコ軍によるアルメニア人の虐殺が題材になっています。この事件は、アトム・エゴヤン監督の『アララトの聖母』(02)でも取り上げられていました。
主人公のナザレットを、『預言者』(09)、『パリ、ただよう花』(11)、『ある過去の行方』(13)のタハール・ラヒムが、その妻を、ベルベル人の血を引くモロッコ出身のシンガー、インディ・ザーラが演じています。サウンドトラックは、『愛より強く』(04)や『トラブゾン狂騒曲〜小さな村の大きなゴミ騒動〜』(12)などでもアキンと組み、『クロッシング・ザ・ブリッジ〜サウンド・オブ・イスタンブール〜』(05)では、トルコ音楽の案内人を務めたアレキサンダー・ハッケが手がけています。→『消えた声が、その名を呼ぶ/The Cut:オリジナル・サウンドトラック』(サンプル、聴けます)
本作を「ニューズウィーク日本版」の筆者コラム「映画の境界線」で取り上げました。その記事をお読みになりたい方は以下のリンクからどうぞ。
● オスマン・トルコで起きたアルメニア人虐殺とディアスポラ(離散)の過酷|『消えた声が、その名を呼ぶ』
|