[ストーリー] 生徒たちにバカにされ、夏のヴァカンスにさえなんの予定もない、そんなさえない教育実習生のダニエルが、美しいトルコ人のメレクに一目ぼれをする。彼女を追ってハンブルクからイスタンブールへ。偶然にも、彼に思いを寄せる自由奔放な女性ユーリが仲間に加わり、破天荒な旅がはじまる。
喧嘩、誘惑、その果てには身包みをはがされ、ドラッグを初体験し、国境警察から留置所に放り込まれるという始末。どうしてもメレクに逢いたいという気持ちからか、あるいはどんどん好きになっていくユーリの影響か?長い放浪の旅の間に、偏屈で面白みのなかったダニエルの性格が変わり始める。果たして、ダニエルは無事イスタンブールにたどり着き、メレクに再会できるのか。それとも――。[プレスより]
『太陽に恋して』(00)は、『Short Sharp Shock(英題)』(98)で長編デビューを果たしたトルコ系ドイツ人の新鋭ファティ・アキン監督の長編第2作になる。デビュー作はアキン版『ミーン・ストリート』といえるようなタフな作品だったが、今度はさえない教育実習生の成長を描くロマンティック・コメディ/ロード・ムービーだ。
この映画には、後の『愛より強く』(04)や『そして、私たちは愛に帰る』(07)のようにトルコ系移民をめぐる問題は盛り込まれていないが、アイデンティティに関する独自の視点が巧妙に埋め込まれているともいえる。アキン自身はアイデンティティに関して、民族や文化や土地よりも、自分自身の体験や他者との関係性にこだわる。そしてこの映画も、ダニエルが求めているものは最初から目の前にあるが、旅をしなければそれに気づくこともなかったということを物語っている。
アキンのデビュー作では、キャラクターの造形や俳優から個性を引き出す能力が印象に残るが、この第2作ではそれらにさらに磨きがかけられ、巧みな話術も加わっている。
たとえば、映画の導入部だ。物語は、終盤に近い部分のエピソードから始まる。周囲には荒れ野が広がるだけの一本道で、男が車を停め、トランクを確認する。そこには死体らしきものが見える。とそのとき、どこからともなく現われたモーリッツ・ブライブトロイ扮する主人公ダニエルが背後から声をかけ、男が慌ててトランクを閉じて、苛立ちを露にする。
その男イザに扮しているのは、前作『Short Sharp Shock(英題)』でトルコ移民の主人公ガブリエルを演じていたマフメット・クルトゥルス。走り出そうとする車に体当たりしてでもヒッチハイクしようとするダニエルと彼を乗せまいとするイザの荒っぽいやりとりは、とてもロマンティック・コメディのオープニングには見えないが、なんとか一緒にトルコに向かうことになり、ダニエルがこれまでの経緯を語り出すところから、この主人公の物語が始まる。 |