ファティ・アキンは、1973年にトルコ系の移民二世として港湾都市ハンブルクに生まれた。当初は俳優を志し、舞台やテレビに出演していたが、ステレオタイプな役ばかりであることに嫌気がさし、ハンブルク造形芸術大学に進学。95年の短編『Sensin…You’re the One!』(未)で評価され、『Short Sharp Shock』(98/未)で長編デビューを果たした。
アキンはトルコそのものにルーツを求めようとはしない。アイデンティティに対する彼の考え方は、この映画の音楽にも表れている。サントラで際立っているのは、ブルックリンを拠点にするブルックリン・ファンク・エッセンシャルズ(以下BFE)の98年のアルバム『In the Buzzbag』に収められた楽曲だ。BFEはツアーでトルコを訪れたときに、地元のダブルムーン・レコードのオファーを受けて、トルコのバンド、ラチョ・タイファとのコラボレーションというかたちでこのアルバムを作った。そこには、文化やジャンルといった境界を超えた世界がある。