第二弾の『そして、私たちは愛に帰る』では、男女の関係が親子のそれに置き換えられ、さらに移民以外の人物の視点も盛り込まれる。ドイツとトルコをめぐってすれ違う三組の親子の感情が、二つの「死」という悲劇を招き寄せてしまう。しかしその死は、他者の存在を通して親子の絆を見つめなおし、再生させる契機となる。トルコ系二世の息子は、父親が命を奪ってしまったトルコ系娼婦の娘を探し出すためにイスタンブールを訪れる。ドイツ人の母親は、反政府活動に身を投じたトルコ人女性を救おうとして不運にも命を落とした娘の気持ちを確かめるためにイスタンブールを訪れる。この映画でも、彼らが求めるものは最初から目の前にあったが、他者の痛みを受け入れなければそれは見えてこない。
そして、『ウエスタン』という仮題がつけられた第三弾では、ドイツとトルコという図式も取り払われ、20世紀初頭にヨーロッパからアメリカに渡った移民の物語が描かれる予定だ(※2014年にタハール・ラヒム主演の『ザ・カット(原題)/The Cut』として完成)。この映画はかなりの大作になるため、資金の調達に時間がかかっている。
その間にアキンが撮りあげたのが『ソウル・キッチン』だが、この映画では彼が見出した答えがまったく別のかたちで表現されている。なぜなら、ギリシャ系の兄弟が営み、アラブ系やトルコ系など様々なバックグラウンドを持つ人々が集うレストランは、目の前にある「ホーム」や「自由」を象徴するアジール(解放区)になっているからだ。
民族的なアイデンティティだけに立脚することは、しばしば他者を排除することに繋がる。アキンは、「愛」「死」「悪」といった普遍的なテーマを意識し、個人の次元からアイデンティティを掘り下げ、他者との新たな関係性を切り拓こうとするのだ。 |