イギリスの作家ハニフ・クレイシは、自身の小説『ぼくは静かに揺れ動く』がフランスの監督パトリス・シェローによって映画化(『インティマシー/親密』)されたときに、こう語っていた。「現代人はもはや伝統的な政治に興味を失っているんだと僕は思う。政治とは今や肉体の中にある」
『天安門、恋人たち』、『スプリング・フィーバー』の監督ロウ・イエの魅力は、肉体を通して性愛とともに肉体の持ち主を取り巻く世界の現実まで描き出してみせるところにある。そして、過激な性描写で話題となったジウ・ジエのネット小説「裸」を映画化した新作『パリ、ただよう花』も例外ではない。
物語は、北京で出会ったフランス人の恋人を追ってパリにやって来た若い教師ホアが、再会した恋人に捨てられるところから始まる。パリを彷徨う彼女は偶然、街中で解体作業をしていた建設工のマチューに出会う。ふたりの関係は一方的ともいえる暴力的なセックスから始まり、繰り返されるセックスのなかでその肉体は、様々な力がせめぎ合う場と化していく。
マチューはホアに心を奪われるが、彼と仲間たちのホモソーシャルな連帯関係のなかでは彼女は闖入者に等しい。さらに彼は、移民の問題に関わる秘密を抱えてもいる。一方、ホアには大学における交流や中国人の友人たちとの関係があるが、マチューはそんなインテリや中国人の価値観に対する反感を隠さない。
グローバリゼーションによって変化する社会を意識したこの映画では、人種、階層、ジェンダーなどが複雑に絡み合い、不条理な暴力を生み出し、肉体を翻弄し傷つけていく。だがそこに、緊張をともなうような解放があったことも否定はできない。
ホアは最終的に北京に戻ることになるが、そこは以前と同じ世界ではないだろう。彼女は、肉体の喜びや痛みを通して、自分が何者で、いまどんな世界を生きているのかを知ることになる。
※撮影は、ジャ・ジャンクーとのコラボレーションでよく知られるユー・リクウァイ。彼が監督した『PLASTIC CITY』もグローバリゼーションを意識した作品だった。出演は、LOUISVUITTON、Dior、Yves Saint Laurentなど、トップブランドの広告等で活躍するフランス生まれの中国人モデル兼女優コリーヌ・ヤンと、ジャック・オディアール監督『預言者』のタハール・ラヒム。 |