[ストーリー] 優しい夫と可愛い娘。夫婦で共同経営する会社も好調で、なにも不自由のない満ち足りた生活を送る女ルー・ジエ。愛人として息子と慎ましく生活しながらも、いつかは本妻に、と願うサン・チー。流されるまま二人の女性とそれぞれの家庭を作り、二つの家庭で生活する男ヨンチャオ。
いびつながらも平穏に見えたそれぞれの日常は、ほんの少しの出来事でいとも簡単に崩壊し、その事件は起きた。「二重生活」が原因で巻き起こる事件、さらにそれが新たな事件を生み、事態は複雑になっていく。3人の男女、事件を追う刑事、そして死んだ女。それぞれの思わくと事情が何層にも重なりあい、物語はスリリングに進んで行く。[プレスより]
ワン・シャオシュアイ監督の『我らが愛にゆれる時』(08)では、白血病の娘の命を救うために、両親がもう一人子供をもうけて臍帯血移植を行なうしかなくなる。だが、その両親は離婚しているばかりか、それぞれに再婚している。中国には一人っ子政策があるため、母親が人工授精で第二子を産めば、父親の現在の妻は子供を持てなくなる。この映画では、そんな状況で二組の夫婦、四人の男女の複雑な心理が繊細に描き出される。
ロウ・イエ監督のミステリー仕立ての新作『二重生活』でも、同じように一人っ子政策を絡めて男女の心理が鋭く掘り下げられていく。物語は、裕福な若者たちが女子大生を車ではねて死なせる場面から始まる。ところが、彼女の頭部には事故前に殴打された跡があり、数時間前まで一緒にいた人物が割り出される。その男ヨンチャオは、二つの家庭を持っていた。
なぜヨンチャオは二重生活を送るのか。彼と共同で会社を経営する妻との間には娘がいて、愛人との間には息子がいる。そんな図式だけなら、男児が重視され、愛人が黙認される中国では必ずしも珍しいものではない。興味深いのは、この男女の力関係だ。ヨンチャオ自身もまた重視される男児の一人であるはずだが、ドラマが展開していくに従って、二重生活の中心に位置しているようには見えなくなる。 |