9・11以後をテーマにした映画には、多様な視点を見出すことができる。『ワールド・トレード・センター』や『ユナイテッド93』のように、その瞬間に何が起こっていたのかを見つめなおそうとする作品。『華氏911』のように、ブッシュ政権とイラク戦争の実態を明らかにしようとする作品。
『グアンタナモ、僕達が見た真実』や『マイティ・ハート/愛と絆』のように、9・11以後に激化した対立に巻き込まれた人々の実話に基づく作品。『愛をつづる詩』や『ランド・オブ・プレンティ』のように、文化や宗教、世代や価値観が異なるふたりの人物たちの触れ合いを通して、9・11が生んだ亀裂を乗り越えていこうとする作品。『サーチャーズ2.0』のように、復讐と石油をめぐってアメリカを痛烈に風刺する作品などがすぐに思い浮かぶ。
このテーマは様々な角度から掘り下げられてきたが、アメリカの今後を長い目で見たときに、ますます重要になってくるのが、移民に対する視点だろう。
たとえば、今年の6月に公開されたばかりの『扉をたたく人』は、そんな視点が際立つ作品だった。妻を亡くしてから心を閉ざし、惰性で生きてきた初老の大学教授は、シリア出身のジャンベ奏者の若者と偶然に出会い、音楽を通して友情を育んでいく。だがその若者は不法滞在者として拘束されてしまう。
この映画では、フェリーからの展望を通して、自由の女神とかつてワールドトレードセンターが建っていた空間がさり気なく対置されている。それは、これまで移民を受け入れることによって発展を遂げてきたアメリカが、移民希望者や不法滞在者に対して厳しい措置をとるようになったことを示唆している。
筆者はこのフェリーのシーンを観ながら、デイヴィッド・ライアンの『9・11以後の監視』のなかの以下のような記述を思い出した。
「9・11以後、公正な社会ではあらゆる人々に平等な機会が開かれているという、尊重されるべき信条でさえ、雲行きが怪しくなっている。もう一つのニューヨークの名高いシンボルである自由の女神も、そこで嘆いているに違いない。なるほど、確かにアメリカ合衆国はこれまで一度も平等な社会を求める気高い要求に応じることはなかった。だが、2001年の事件以来、すでにあった不平等と不均衡が拡大してきている。戦時中は、他国や敵に対する敵意に満ちた防衛が高まり、疑いの文化が台頭し、誰もそれを免れることはできない。今回の「戦争」も例外ではない。相互信頼という社会の基盤はこうして損なわれつつある」
そして、現代のロサンゼルスを舞台にした『正義のゆくえ I.C.E.特別捜査官』にも、そんな問題意識が反映されている。この映画で最初に私たちの関心を引くのは、世界各国からやって来た様々な移民ではなく、ICE(移民・関税執行局)の存在だ。この組織は、9・11以後に新たに設置された国土安全保障省の傘下にある。ライアンの『9・11以後の監視』では、国土安全保障省のことが以下のように説明されている。「国土安全保障省の任務は、予防、防衛、アメリカ国内のテロリズム対策といった前代未聞のものである」
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