サーチャーズ2.0
Searchers 2.0  Searchers 2.0
(2007) on IMDb


2007年/アメリカ/カラー/96分/ヴィスタ/VIDEO
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(初出:『サーチャーズ2.0』劇場用プログラム)

 

 

夢と現実の狭間から浮かび上がるアメリカ

 

 アレックス・コックスはかつて創作について、「現実を自分なりに別の次元でとらえることに興味がある」と語っていた。彼は、政治や社会、人間の内面などに対する鋭い批評眼や洞察力を備えているが、現実を直接的に描こうとはしない。フィルム・ノワールやマカロニ・ウエスタン、B級SFといったジャンルを取り込むことによって、作品に強烈なひねりを加える。シュールレアリスムに強い関心を持ち、時空の歪みや現実と悪夢のせめぎ合いを生み出す。イギリスやアメリカ、スペイン、ニカラグア、メキシコなど、常にロケ地からインスピレーションを得て、独自の空間を作り上げる。彼の作品では、そうした要素が絡み合い、現実に揺さぶりをかけるようなブラック・ユーモアに結びついていくのだ。

 待望の新作『サーチャーズ2.0』には、そんなコックスならではのブラック・ユーモアが散りばめられている。この映画のキーワードは“復讐”だ。主人公のメルとフレッドは、かつて子役として出演した映画の撮影現場で、冷酷な脚本家フリッツ・フロビシャーに虐待された恨みを晴らすために、モニュメント・バレーを目指す。そのモニュメント・バレーで撮影され、この映画のタイトルのもとになったジョン・フォードの『捜索者』もまた、復讐の物語だった。ジョン・ウェイン扮するイーサンは、兄夫婦の命を奪い、姪を連れ去ったコマンチ族に復讐するために、捜索の旅に出る。さらに、メルとフレッドの復讐は、9・11に対するアメリカの報復とも絡み合っていく。

 だが、この映画に盛り込まれた様々な復讐のなかで、最初に注目しなければならないのは、メルとフレッドとデライラが、バーのなかで繰り広げる議論だろう。メルとフレッドは、復讐を英語劇における最重要テーマと位置づけ、究極の復讐の鬼がブロンソンかイーストウッドかを論じ合っている。彼らは、ヒーローの存在を前提にしているが、デライラは、古典復讐劇は別物だと主張する。古典には復讐を否定する道徳的教訓があり、復讐した主人公は必ず報いを受けるからだ。この3人の議論には、復讐に対するコックスの関心が表れている。


◆スタッフ◆
 
監督/脚本/編集   アレックス・コックス
Alex Cox
製作総指揮 ロジャー・コーマン
Roger Corman
製作 ジョン・デイビソン
Jon Davison
撮影 スティーヴン・ファイアーバーグ
Steven Fireberg
音楽 ダン・ウール
Dan Wool
 
◆キャスト◆
 
メル・トーレス   デル・ザモラ
Del Zamora
デライラ ジャクリン・ジョネット
Jaclyn Jonet
フレッド・フレッチャー エド・パンシューロ
Ed Pansullo
フリッツ・フロビシャー サイ・リチャードソン
Sy Richardson
ラスティ・フロビシャー ザン・マクラーノン
Zahn McClarnon
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(配給: アップリンク )
 


 前作『リベンジャーズ・トラジディ』(02)の原作は、17世紀イギリスの劇作家トーマス・ミドルトンの代表作『復讐者の悲劇』だった。コックスは、この古典復讐劇の舞台を宮廷から2011年のリヴァプールに変え、終末観が漂う近未来世界を作り上げた。そんな映画では、冒頭に挿入された「人を呪わば穴二つ」という諺が示唆するように、主人公は復讐を果たす代わりに、自分の墓穴も掘ることになる。復讐の鬼はヒーローとはなり得ない。コックスは、復讐と欲望、不安に囚われ、それぞれに自分を見失っていく登場人物たちの姿を、ブラック・ユーモアも交えながら、グロテスクなタッチで描き出している。

 さらに、ボルヘスの短編小説を映画化した『デス&コンパス』(96)を振り返っておくのも無駄ではないだろう。近未来風のメガロポリスを舞台にしたこの映画も、復讐と繋がりがある。謎の連続殺人事件を捜査する主人公の敏腕警部は、その能力を過信し、彼に恨みを持つ容疑者に注目するのではなく、事件現場に残された謎のメッセージにとり憑かれ、自分の死で完結する復讐劇を演出してしまう。

 こうしたコックスの視点は、新作にも引き継がれている。この映画は、メルが日雇いの仕事を求めるところから始まる。それはまさに彼が直面している現実であり、もしヒスパニックの同胞たちの権利を守るためにもっと積極的に立ち上がろうとすれば、ヒーローと呼ばれることになるかもしれない。だが、ふと耳にした音楽が彼を別の世界に引き込み、復讐の旅に駆り立てていく。

 その旅からは、様々なブラック・ユーモアが浮かび上がってくる。メルは、自分で車を所有する余裕などまったくないにもかかわらず、「奴らを倒し、石油を奪え」というステッカーのメッセージに賛同している。この映画には、デライラが戦死者を追悼する遺影に見入る場面や、3人を乗せたSUVが、戦死者のものと思われる墓地を通過する場面などが盛り込まれている。その図式は、戦死者たちが石油のために命を落とし、3人がやたらとガソリンを食う車で旅していることを物語る。さらに、フレッドとメルは、イラク戦争を正義、石油、復讐という言葉で正当化することによって、フロビシャーから金を奪うことも正当化しようとする。

 しかし、復讐の鬼を賛美していた彼らは、ヒーローにはなり得ない。実はフレッドもフロビシャーも、メルが思っていたような人間ではない。メルの視点に立ってみると、この物語はある種の夢のようにも思えてくる。音楽によってフレッドの家に導かれ、フロビシャーに対する恨みを勢いで口走った彼は、復讐に囚われていくが、最後に現実に目覚める。あるいは、メルがマリファナを、デライラが抗うつ剤を置き忘れてきた旅から、もうひとつの現実が浮かび上がってくるということもできる。コックスは、そんな時空を切り開くことによって、イラク戦争や映画産業を痛烈に風刺してみせるのだ。


(upload:2009/03/25)
 
 
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