レポマン
REPO MAN


1984年/アメリカ/カラー/92分/ヴィスタ
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(初出:『80年代アメリカ映画100』、若干の加筆)

時代の閉塞感を突き破るパワーを持つ、
80年代アメリカ映画の裏金字塔

 イギリス出身のアレックス・コックスが、UCLAで映画を学び作り上げた長編デビュー作『レポマン』は、80年代アメリカ映画の隠れた金字塔といえる。タイトルの“レポマン”は、ローンを払わない客の車を無理やり回収する取り立て屋を意味する俗称だ。

 映画の舞台はロサンゼルス。スーパーの店員をクビになったパンクキッズ、オットーは、成り行きでレポマンのグループの一員となる。その頃、街を迷走する64年型のシェビー・マリブに二万ドルの賞金がかけられる。ロボトミー手術を受けた原子力科学者が運転する車には宇宙人の死体が積まれていた。そこでマリブをめぐって、政府の科学者や情報員、競い合うレポマンのグループ、パンクスらが争奪戦を繰り広げる。

 この映画からはレーガン時代のランドスケープが浮かび上がってくる。たとえばレポマンが繁盛しているのはなぜか。必ずしも客がローンを組んだあとで景気が悪くなったり、失業したりしたわけではない。最初から払えないことを知りながら売っている。ローンであろうがカードであろうがとにかくまず消費する。そんな体質はゼロ年代を揺るがせたサブプライムローン問題にも引き継がれている。

 テレビ伝道師の存在も時代を象徴している。彼らはテレビ界の規制緩和の波に乗り、番組の時間を買い取り、テレビを通して莫大な寄付を集めるシステムを確立した。と同時に政治力も獲得し、レーガン政権を支えた。ピュリツァー賞にも輝いたジャーナリスト、ヘインズ・ジョンソンが80年代を総括した『崩壊帝国アメリカ』には、以下の記述がある。

テレビ説教がこのように力を持ち目立ってくるにつれて、宗教上、政治上で注目すべきパラドックスが生じた。アメリカの宗教各派のなかで福音主義派のクリスチャンは従来、政治活動にはもっともかかわらない人たちだった(中略)しかし八〇年代の初めになると、福音主義者たちは政治にもっとも活発に関与しそうなあの宗教グループになっていた

 この映画では、オットーの両親がテレビ伝道師に心酔し、息子のために蓄えた千ドルをすべて寄付してしまう。その見返りとして(オットーが)「炎の戦車(chariots of fire)≠フ栄誉にあずかれる」という父親の台詞はしっかり覚えておこう。


◆スタッフ◆
 
監督/脚本   アレックス・コックス
Alex Cox
製作 マイケル・ネスミス
Michael Nesmith
撮影 ロビー・ミュラー
Robby Muller
編集 デニス・ドラン
Dennis Dolan
テーマ曲 イギー・ポップ
Iggy Pop
音楽 ティト・ラリヴァ、スティーヴン・ヒュースティーター
Tito Larriva, Steven Hufsteter
 
◆キャスト◆
 
オットー   エミリオ・エステベス
Emilio Esteves
バッド ハリー・ディーン・スタントン
Harry Dean Stanton
レイラ オリヴィア・バラシュ
Olivia Barash
ミラー トレイシー・ウォルター
Tracey Walter
ライト サイ・リチャードソン
Sy Richardson
ケヴィン サンダー・シュロス
Zander Schloss
デューク ディック・ルード
Dick Rude
-
(配給:ユーロスペース )
 

 さらにもうひとつ見逃すわけにいかないのが、フィルム・ノワールとして異彩を放ってきたロバート・アルドリッチの『キッスで殺せ』(55)を下敷きにしていることだ。アルドリッチは、原作者ミッキー・スピレインの国粋主義的で暴力的な世界に独自の解釈を加え、謎の箱の争奪戦を通して冷戦や赤狩り、核の脅威が生み出す50年代の不気味な空気をとらえてみせた。

 つまり、この映画を参照することは、レーガン政権が回帰しようとした50年代が実際にはどういう時代であったのか、さらに80年代をどういう時代だと考えているのかを暗黙のうちに物語っていることになる。

 コックスの凄さは、こうした政治や社会、歴史の要素をB級映画の様々な表現を織り交ぜながら、まとめあげていくところにある。たとえば、冒頭でマリブのトランクを開けた警官が強烈な光線を浴びて骸骨になり、消失する場面などは、『キッスで殺せ』で箱を開け、放射性物質に焼かれる女のパロディにしか見えないかもしれない。しかしこの映画は、B級感覚に溢れたブラック・コメディにとどまる作品ではない。

 そこで注目したいのが先述した炎の戦車≠フことだ。この言葉の出所は旧約聖書で、ヘブライの預言者エリヤは炎の戦車に乗って天に昇る。そんなヴィジョンに想像力を刺激され、炎の戦車をUFOだと主張するマニアがいる。凡庸な監督がこうしたマニアの主張を盛り込めば、B級を超えてC級になるが、コックスは違う。

 映画に強烈な磁場を生み出し、80年代、50年代、レーガン政権、冷戦、消費社会、テレビ伝道師、聖書などを巻き込み、炎の戦車=マリブ=UFOをロサンゼルスの夜空に舞い上がらせる。そしてオットーを苛む時代の閉塞感を突き破る。だからこの監督はパンクなのだ。

《参照/引用文献》
『崩壊帝国アメリカ:「幻想と貪欲」のレーガン政権の内幕』 ヘインズ・ジョンソン●
山口正康監修/岡達子・小泉摩耶・野中千恵子訳(徳間書店、1991年)

(upload:2014/01/06)
 
 
《関連リンク》
アレックス・コックス・インタビュー 『サーチャーズ2.0』 ■
ヘインズ・ジョンソン 『崩壊帝国アメリカ』 レビュー ■

 
 
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