イギリス出身のアレックス・コックスが、UCLAで映画を学び作り上げた長編デビュー作『レポマン』は、80年代アメリカ映画の隠れた金字塔といえる。タイトルの“レポマン”は、ローンを払わない客の車を無理やり回収する取り立て屋を意味する俗称だ。
映画の舞台はロサンゼルス。スーパーの店員をクビになったパンクキッズ、オットーは、成り行きでレポマンのグループの一員となる。その頃、街を迷走する64年型のシェビー・マリブに二万ドルの賞金がかけられる。ロボトミー手術を受けた原子力科学者が運転する車には宇宙人の死体が積まれていた。そこでマリブをめぐって、政府の科学者や情報員、競い合うレポマンのグループ、パンクスらが争奪戦を繰り広げる。
この映画からはレーガン時代のランドスケープが浮かび上がってくる。たとえばレポマンが繁盛しているのはなぜか。必ずしも客がローンを組んだあとで景気が悪くなったり、失業したりしたわけではない。最初から払えないことを知りながら売っている。ローンであろうがカードであろうがとにかくまず消費する。そんな体質はゼロ年代を揺るがせたサブプライムローン問題にも引き継がれている。
テレビ伝道師の存在も時代を象徴している。彼らはテレビ界の規制緩和の波に乗り、番組の時間を買い取り、テレビを通して莫大な寄付を集めるシステムを確立した。と同時に政治力も獲得し、レーガン政権を支えた。ピュリツァー賞にも輝いたジャーナリスト、ヘインズ・ジョンソンが80年代を総括した『崩壊帝国アメリカ』には、以下の記述がある。
「テレビ説教がこのように力を持ち目立ってくるにつれて、宗教上、政治上で注目すべきパラドックスが生じた。アメリカの宗教各派のなかで福音主義派のクリスチャンは従来、政治活動にはもっともかかわらない人たちだった(中略)しかし八〇年代の初めになると、福音主義者たちは政治にもっとも活発に関与しそうなあの宗教グループになっていた」
この映画では、オットーの両親がテレビ伝道師に心酔し、息子のために蓄えた千ドルをすべて寄付してしまう。その見返りとして(オットーが)「炎の戦車(chariots of fire)≠フ栄誉にあずかれる」という父親の台詞はしっかり覚えておこう。
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