そして、ミラーの捜索と国防総省の裏工作が結びついていくことになるが、そんなストーリーには随所に事実が散りばめられている。たとえば、戦前のアメリカ政府内では、バース党やイラク軍を温存するというガイドラインが作成されたことがあり、国務省もCIAもそれを支持していた。この映画では、CIAのエージェントのブラウンにその見解を提示させ、国防総省のバウンドストーンと対立させる。
ミラーが始める独自の捜査はさらに興味深い。彼は、フセイン政権の最高幹部で、<クラブのジャック>にあたる(米軍はフセイン政権の要人をトランプに当てはめて識別した)アル・ラウィ将軍を追うと同時に、“マゼラン”と呼ばれる大量破壊兵器の情報源の正体を突き止めようとする。
そんな彼が明らかにしていく真相は、様々な事実を想起させる。ミラーが追う<クラブのジャック>ことアル・ラウィは実在の人物だが、彼はフセイン政権崩壊後に姿をくらました。だから、アル・ラウィとミラーの駆け引きは事実ではないが、まったくあり得ないことを描いているわけではない。
この映画のアル・ラウィと“マゼラン”の存在には、別のいくつかの事実が巧みに合成されている。まず、バグダードから逃走し、故郷で米軍に拘束された大統領補佐官で、<ダイヤのエース>にあたるアル・ティクリティのエピソードだ。ジェームズ・ライゼンの『戦争大統領 CIAとブッシュ政権の秘密』では、以下のように説明されている。
「アル・ティクリティは、イラクには大量破壊兵器はなく、とうの昔にすべて廃棄されたと告げた。その発言がなされた2003年6月、アメリカは禁止されている兵器をなおも探している最中で、発見することがブッシュ政権の重要な政治目標だった」
また、フセイン政権は開戦前に裏ルートを通じて大量破壊兵器を保有していないことをアメリカに伝えようとしたが、アメリカはバグダードで会おうと、これを突っぱねた。そして、どうしても戦争がしたいアメリカが飛びついたのが、国外追放処分を受けたイラク人で、“カーブボール”という暗号名を持つ人物の極めて信憑性が薄い大量破壊兵器の情報だった。この映画でミラーが明らかにしていく真相は、そうした事実をヒントに作り上げられている。だから、フィクションではあるものの、非常にリアルな緊迫感を生み出す。
つまりこの映画は、様々な事実を意図して“グリーン・ゾーン”に取り込み、痛烈な批判を込めてイラク戦争の全体像を描き出しているのだ。 |