中東地域を担当するヴァレリーは、在米の親族を通してイラク人科学者から情報を引き出し、大量破壊兵器が存在しないことを突き止める。元ニジェール大使だったジョーも、国務省の要請でニジェールに赴き、イラクのウラン購入の情報が信憑性に欠けることを確認する。
ところがブッシュ政権は情報を無視して開戦に踏み切る。危機感を覚えたジョーは新聞で自身の調査に基づく事実を明らかにするが、その直後にヴァレリーの正体がリークされ、夫婦は政治的な圧力と誹謗中傷にさらされていく。
この映画では、あくまで権力と戦おうとするジョーと、家族を守るために孤立に耐えて沈黙するヴァレリーの葛藤と絆が見所になっている。だが、その背後の空気も見逃せない。
映画のもとになった事件では、すでに情報漏洩を指示した副大統領首席補佐官リビーに有罪が宣告されている。だから夫婦やリビーという中心的な登場人物だけを見れば、善悪が明確なドラマになるが、それだけで問題が解決するわけではない。
たとえば、ジェームズ・ライゼンの『戦争大統領』には、当時のCIAの迷走が以下のように書かれている。「イラク問題を担当する局員たちは、CIA上層部や工作本部やブッシュ政権上層部からすさまじい圧力をかけられていて、開戦のきっかけを探っていた。こうすれば戦争をはじめられると、過激で突拍子もない案をいくつも出していた」
ところが一方で情報収集担当次長アレンは、すでに真実にたどり着いていた。「親族を使ってイラクの科学者数十人に接触するというチャーリー・アレンの作戦は、めざましい成果を挙げ、2003年3月のイラク侵攻の数ヶ月前に、CIAはイラクの兵器開発計画が存在しないことをみごとに突き止めていたのである」
情報の私有化は、レーガン政権のイラン・コントラ事件を想起させるが、これはある意味もっと悪い。元俳優レーガンは知らないふりをするのに長けていたが、イラク問題では、圧力をかけられたCIA幹部が絶対確実な証拠を黙殺し、ブッシュ大統領はなにも聞かされなかったという。 |