フェア・ゲーム
Fair Game


2010年/アメリカ/カラー/108分/ヴィスタ/ドルビーSRD
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(初出:「CDジャーナル」2011年11月号、若干の加筆)

イラクの大量破壊兵器をめぐる
ブッシュ政権・CIA上層部の陰謀

 イラク戦争に前後する時期には、アメリカ政府やCIAのなかで信じがたいことがいろいろと起こっていた。フセイン政権は開戦前に裏ルートを通じて大量破壊兵器を保有していないことをアメリカに伝えようとしたが、アメリカはバグダードで会おうと、これを突っぱねた。

 どうしても戦争がしたいアメリカが飛びついたのは、国外追放処分を受けたイラク人で、“カーブボール”という暗号名を持つ人物の極めて信憑性が薄い大量破壊兵器の情報だった。

 

 バグダード陥落後、故郷で米軍に拘束された大統領補佐官アル・ティクリティは、イラクに大量破壊兵器などなく、とうの昔にすべて破棄されたと告げたが、兵器を探し出すというブッシュ政権の目標が変わることはなかった。

 実はCIAは、このアル・ティクリティが告げたような事実を開戦前につかんでいた。ところが、政府やCIAの上層部から圧力がかかる。ダグ・リーマン監督の『フェア・ゲーム』では、そこから起こった事件が描き出される。

 この映画、アメリカではいまひとつ盛り上がらなかったみたいだが、それはこの事件そのものが大きな注目を集め、よく知られていたからではないかと思う。日本ではそれほど知られていないので、スリリングでもあり、見応えがあるはずだ。

 実話に基づくこの映画の主人公は、幼い双子の母親でもあるCIA諜報員のヴァレリー、そして彼女の夫で元外交官のジョーだ。物語は9・11以後、イラク侵攻に前後する時期を背景にしている。


◆スタッフ◆
 
監督   ダグ・リーマン
Doug Liman
脚本 ジェズ・バターワース、ジョン・ヘンリー・バターワース
Jez Butterworth, John-Henry Butterworth
原作 ヴァレリー・プレイム、ジョゼフ・ウィルソン
Valerie Plame, Joe Wilson
撮影 ダグ・リーマン
Doug Liman
編集 クリストファー・テレフセン
Christopher Tellefsen
音楽 ジョンパウエル
John Powell
 
◆キャスト◆
 
ヴァレリー・プレイム   ナオミ・ワッツ
Naomi Watts
ジョー・ウィルソン ショーン・ペン
Sean Penn
サム・プレイム サム・シェパード
Sam Shepard
ルイス・リビー デヴィッド・アンドリュース
David Andrews
ダイアナ ブルック・スミス
Brooke Smith
ビル ノア・エメリッヒ
Noah Emmerich
ジム・パビット ブルース・マッギル
Bruce McGill
ジャック マイケル・ケリー
Michael Kelly
-
(配給:ファントム・フィルム)

 中東地域を担当するヴァレリーは、在米の親族を通してイラク人科学者から情報を引き出し、大量破壊兵器が存在しないことを突き止める。元ニジェール大使だったジョーも、国務省の要請でニジェールに赴き、イラクのウラン購入の情報が信憑性に欠けることを確認する。

 ところがブッシュ政権は情報を無視して開戦に踏み切る。危機感を覚えたジョーは新聞で自身の調査に基づく事実を明らかにするが、その直後にヴァレリーの正体がリークされ、夫婦は政治的な圧力と誹謗中傷にさらされていく。

 この映画では、あくまで権力と戦おうとするジョーと、家族を守るために孤立に耐えて沈黙するヴァレリーの葛藤と絆が見所になっている。だが、その背後の空気も見逃せない。

 映画のもとになった事件では、すでに情報漏洩を指示した副大統領首席補佐官リビーに有罪が宣告されている。だから夫婦やリビーという中心的な登場人物だけを見れば、善悪が明確なドラマになるが、それだけで問題が解決するわけではない。

 たとえば、ジェームズ・ライゼンの『戦争大統領』には、当時のCIAの迷走が以下のように書かれている。「イラク問題を担当する局員たちは、CIA上層部や工作本部やブッシュ政権上層部からすさまじい圧力をかけられていて、開戦のきっかけを探っていた。こうすれば戦争をはじめられると、過激で突拍子もない案をいくつも出していた

 ところが一方で情報収集担当次長アレンは、すでに真実にたどり着いていた。「親族を使ってイラクの科学者数十人に接触するというチャーリー・アレンの作戦は、めざましい成果を挙げ、2003年3月のイラク侵攻の数ヶ月前に、CIAはイラクの兵器開発計画が存在しないことをみごとに突き止めていたのである

 情報の私有化は、レーガン政権のイラン・コントラ事件を想起させるが、これはある意味もっと悪い。元俳優レーガンは知らないふりをするのに長けていたが、イラク問題では、圧力をかけられたCIA幹部が絶対確実な証拠を黙殺し、ブッシュ大統領はなにも聞かされなかったという。

《参照/引用文献》
『戦争大統領――CIAとブッシュ政権の秘密』ジェームズ・ライゼン●
伏見威蕃訳(毎日新聞社、2006年)

(upload:2012/01/25)
 
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