サンフェルナンド・バレーは戦後いち早く郊外化が進み、アメリカの夢の象徴になったが、荒廃するのも早かった。一方でこの地域は、ハリウッドをもじってバレーウッドと呼ばれた映画産業、ポルノ映画産業、テレビや音楽産業など、ショービジネスの世界に取り巻かれていた。だから、苦労することもなく、ちょっとしたきっかけで予想もしないチャンスに恵まれるようなことが起こる。しかし、チャンスをものにすることは、冷酷なシステムに取り込まれることも意味する。
ということで、ショービジネスと結びついたドラマも少なくない。アンダーソンが実在のポルノ男優ジョン・ホームズにインスパイアされて作った『ブギーナイツ』では、高校を中退し、母親から負け犬呼ばわりされる若者エディが、皿洗いをしていたクラブでポルノ映画の監督ジャックにスカウトされ、スターになっていく。
70年代に一世を風靡したガールズバンド“ランナウェイズ”を題材にしたフローリア・シジスモンディ監督の『ランナウェイズ』(10)は、サンフェルナンド・バレー出身で、バンドのヴォーカルだったシェリー・カーリーの自伝に基づいている。奔放で身勝手な母親と酒に溺れる父親という、壊れかけた家庭に暮らし、鬱屈した日々を送っていたシェリーは、クラブでやり手のプロデューサー、キム・フォーリーにスカウトされ、ランナウェイズが結成され、大きな注目を集めていく。
実話に基づくポール・シュレイダー監督の『ボブ・クレイン 快楽を知ったTVスター』(02)では、サンフェルナンド・バレーに暮らし、60年代にラジオからテレビへと進出してスターになった主人公が、セックスにのめり込み、快楽に溺れていく。
本作で、10歳年上のアラナに一目惚れする15歳のゲイリーは、子役としてショービジネスの世界で活躍していて、ウォーターベッドやピンボールでビジネスをはじめる。アラナが、ベテラン俳優のジャック・ホールデンや映画監督のレックス・ブラウと出会ったり、ゲイリーがアラナの運転するトラックで、映画プロデューサーのジョン・ピーターズの家にウォーターベッドを配達するなど、ショービズ界の人間がいろいろ登場する。 |