ミュンヘン:戦火燃ゆる前に
Munich: The Edge of War


2021年/イギリス=アメリカ/英語・ドイツ語/カラー/129分/スコープサイズ
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(初出:)

 

 

大戦の前年、ズデーテン地方帰属問題を話し合うミュンヘン会談
その陰でナチの極秘情報を入手するためにかつての親友が再会し...

 

[Introduction] イギリスの作家ロバート・ハリスが2017年に発表した歴史サスペンス小説『Munich』の映画化。主な舞台は、チェコスロバキアのズデーテン地方の帰属についてアドルフ・ヒトラー、ネヴィル・チェンバレンら英仏独伊の首脳が交渉を繰り広げた1938年9月のミュンヘン会談。主人公になるのは架空のふたりの人物、チェンバレンの私設秘書のヒュー・レガトとドイツの外交官ポール・フォン・ハートマン。かつてともに学んだふたりが、ナチの極秘情報をめぐってミュンヘンで再会することになる。

 監督は『西という希望の地』や『カールと共に』クリスティアン・シュヴォホー。ヒュー・レガトを、『はじまりへの旅』や『1917 命をかけた伝令』などのジョージ・マッケイ、ポール・フォン・ハートマンを『タイムトラベラーの系譜』シリーズや『コリーニ事件』『カールと共に』などのヤニス・ニーヴーナー(ニーヴナー)、ネヴィル・チェンバレンを『戦慄の絆』『ハウス・オブ・グッチ』などのジェレミー・アイアンズが演じる。その他に、『ありがとう、トニ・エルドマン』や『希望の灯り』ザンドラ・ヒュラー、『マイ ビューティフル ガーデン』のジェシカ・ブラウン・フィンドレイ、『汚れたダイアモンド』や『名もなき生涯』のアウグスト・ディールらが出演。

[Story] 第二次世界大戦勃発の前年にあたる1938年の秋。チェコスロバキアのズデーテン地方のドイツへの帰属を主張し、軍を動かそうとするアドルフ・ヒトラーに対し、イギリス首相ネヴィル・チェンバレンは平和的な解決を模索し、ミュンヘンでズデーテン地方の帰属について交渉する国際会議が開かれることになる。その頃、ドイツの外交官で反ヒトラーのグループに属するポール・フォン・ハートマンが、ナチの極秘文書を入手する。彼はそれをイギリス側に手渡すために、かつてオックスフォードでともに学んだヒュー・レガトを指名する。チェンバレンの私設秘書レガトは、ある出来事によってハートマンと絶縁状態になっていたため、スパイ活動の任務に戸惑いつつもミュンヘンに向かい、旧友との再会を果たすが、極秘文書をめぐって難しい判断を迫られていく。

[レビューは準備中です。とりあえず当時の背景を整理しておく]

 ロバート・ハリスの原作で、ミュンヘン会談の背景がどのように描かれいるのか、読んでいないのでわからないが、たとえば、ドナルド・キャメロン・ワットの『第二次世界大戦はこうして始まった』には、以下のように綴られている。

「オーストリアが併合され、ロンドンは警戒心を強めた。だが、イギリスの内閣には、チェコスロヴァキアの前途を案じる思いなど少しもなかった。軍部の首脳は、一九三八年に戦争をすれば、イギリスが敗れる危険性がきわめて大きいと断言した」


◆スタッフ◆
 
監督   クリスティアン・シュヴォホー
Christian Schwochow
脚本 ベン・パワー
Ben Power
原作 ロバート・ハリス
Robert Harris
撮影 フランク・ラム
Frank Lamm
編集 イェンス・クリューバー
Jens Kluber
音楽 イソベル・ウォーラー=ブリッジ
Isobel Waller-Bridge
 
◆キャスト◆
 
ヒュー・レガト   ジョージ・マッケイ
George MacKay
ポール・フォン・ハートマン ヤニス・ニーヴーナー
Jannis Niewohner
ネヴィル・チェンバレン ジェレミー・アイアンズ
Jeremy Irons
ヘレン・ウィンター ザンドラ・ヒュラー
Sandra Huller
パメラ・レガト ジェシカ・ブラウン・フィンドレイ
Jessica Brown Findlay
フランツ アウグスト・ディール
August Diehl
アドルフ・ヒトラー ウルリッヒ・マテス
Ulrich Matthes
レナ リヴ・リサ・フリース
Liv Lisa Fries
ジョーン・メンジス アンジリ・モヒンドラ
Anjli Mohindra
-
(配給:Netflix)
 

「ゴーデスベルクでの二度目の会談を終えたとき、交渉は決裂寸前になった。チェコは戦時体制をとり、イギリス艦隊も戦闘の準備をととのえ、イギリス国民にはガスマスクが支給され、ロンドンの公園には空襲に備えて防空壕が掘られた。しかし、チェンバレンがムッソリーニを介して再度ヒトラーに会見を申し込むと、ヒトラーはこれに応じた。この申し出を無視すれば、彼のねらいがズデーテンに住むドイツ人の正義ではなく対チェコ戦にあるのだと、世界中の人びとが判断することになるからだった。そして、チェコに宣戦を布告すれば、当然、フランス、イギリスとも戦うことになる。ヒトラーにはまだそこまでの準備ができていなかった。九月二十七日の夜、軍隊がベルリン市街を行進したとき、総統の目の前で市民たちが見せた陰鬱な表情からはっきり見てとれたように、ドイツ国民にも、フランスやイギリスと戦う心の用意はできていなかった。ヒトラーは、戦争ではなく会談を選ぶしかなかったのである」

 この会談から1年もたたないうちに、ドイツとイギリスは戦火を交えることになる。チェンバレンは戦争までの時間稼ぎに成功したといえるのか。本作ではチェンバレンが英雄のように見えるが、それは歴史をどう切り取るかによるのだろう。

「ミュンヘン協定は、ヒトラーの最大の勝利として世界に喧伝された。イギリス議会ではチャーチルとアンソニー・イーデンとダフ・クーパー(これほど恥ずべき行為には賛同しかねるとして、海軍大臣を辞任した)が、これを痛烈に非難した。中央ヨーロッパにおけるフランスの立場は、あっという間に弱くなってしまった。「ボヘミアを制する者がヨーロッパを制す」という言葉がある。そのボヘミア――チェコスロヴァキア――は、国境の防禦を剥ぎとられ、同盟国もなく、まさに無防備な状態で、いまやヒトラーの手中にあった。プラハの市街を行きかう人びとは、衝撃と失望の色を隠せなかった。フランスのM・ダラディエ首相は、ミュンヘン協定の締結をみじめな敗北と思うあまり、ミュンヘンから戻ったとき、ル・ブールジェ飛行場に出迎えた群集を、抗議に集まった暴徒の群れと勘ちがいしたという」

《参照/引用文献》
『第二次世界大戦はこうして始まった』 ドナルド・キャメロン・ワット●
鈴木主税訳(河出書房新社、1995年)

(upload:2022/04/09)
 
 
《関連リンク》
クリスティアン・シュヴォホー 『カールと共に』 レビュー ■
ジョン・マッデン
『オペレーション・ミンスミート ―ナチを欺いた死体―』 レビュー
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デヴィッド・ヴェンド 『帰ってきたヒトラー』 レビュー ■
ミヒャエル・ハネケ 『白いリボン』 レビュー ■
フォルカー・シュレンドルフ 『パリよ、永遠に』 レビュー ■

 
 
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