パリよ、永遠に
Diplomatie


2014年/フランス=ドイツ/カラー/83分/スコープサイズ/5.1ch
line
(初出:)

 

 

ヒトラーの「パリ壊滅作戦」をめぐる駆け引きは
現代における戦争とその後について考えさせる

 

[ストーリー] 1944年8月25日、第二次世界大戦末期、ナチス・ドイツ占領下のフランス。この日、エッフェル塔も、オペラ座も、ノートルダム大聖堂も――パリの象徴でもあり、世界に誇る美しき建造物はすべて、爆破される運命にあった。アドルフ・ヒトラーによる「パリ壊滅作戦」が今まさに実行されようとしていたのである。かつて、フランスを訪れた際にパリの美しさに魅入られたヒトラーは、ベルリンをパリのような街にしたいと願った。しかし、戦時下のベルリンは廃墟と化し、パリだけが美しく輝きを放っているのは許せない。ただそれだけの理由で。すでにドイツの敗北は時間の問題、戦略上何の意味も持たない破壊。だが、最後の最後で、パリは生き残った。

 ヒトラーにパリ壊滅を命じられたドイツ軍パリ防衛司令官コルティッツ。総統命令に従わなければならない立場でありながら、無意味な破壊にためらいも感じている、どこか人間臭い男。パリで生まれ育ち、故郷を守りたい、未来にパリを残したいと願う中立国スウェーデンの総領事ノルドリンク。物語は、ノルドリンクが、コルティッツを思いとどまらせようと、ドイツ軍が駐留するホテルの部屋を訪れるところから始まる。ただの正攻法では説得は成功しない。相手の懐をさぐり、押したり、引いたり、ひとつの仕草さえも「駆け引き」だ。失敗は許されない。巧みな心理戦の中に、時には誠心誠意の愛情も込めて。ノルドリンクの外交術こそ、この映画の醍醐味。アクション満載の大作以上にスリリングと言っても過言ではない。

 『シャトーブリアンからの手紙』につづくフォルカー・シュレンドルフ監督の新作『パリよ、永遠に』は、フランスで大ヒットしたシリル・ジェリーの舞台“Diplomatie”の映画化だ。ヒトラーによる「パリ壊滅作戦」をめぐる駆け引きは、ルネ・クレマン監督の『パリは燃えているか』(66)にも盛り込まれていた。

 一夜に凝縮されたノルドリンクとコルティッツの駆け引きは、スリリングで見応えがあるが、交渉術を見せられるだけなら筆者は満足できなかっただろう。個人的に、この映画に引き込まれるかどうかは、いまそれが作られることの意味、どこかで現代と繋がり、想像力を刺激されるかにかかっている。


◆スタッフ◆
 
監督/脚色   フォルカー・シュレンドルフ
Volker Schlondorff
原案・脚色・脚本・ダイアローグ シリル・ジェリー
Cyril Gely
撮影監督 ミシェル・アマテュー
Mishel Amathieu
編集 ヴィルジニ・ブリュアン
Virginie Bruant
 
◆キャスト◆
 
総領事ラウル・ノルドリンク   アンドレ・デュソリエ
Andre Dussollier
ディートリヒ・フォン・コルティッツ将軍 ニエル・アレストリュプ
Niels Arestrup
コンシェルジュ シャルリー・ネルソン
Charlie Nelson
ジャック・ランヴァン ジャン=マルク・ルロ
Jean-Marc Roulot
マイエル伍長 シュテファン・ヴィルケニング
Stefan Wilkening
ヘッゲル中尉 トマシュ・アーノルド
Thomas Arnold
-
(配給:東京テアトル)
 

 戦争は勝敗が決したところで終わるわけではない。どのように終えるかによって、未来が大きく変わってくる。それはパリだけに限らない。この映画を観ながら筆者が想起していたのはイラク戦争のことだった。

 イラク戦争は、短期間で勝敗が決したが、その後の復興は泥沼化した。なぜそんなことになったのか。たとえば、戦争の遂行しか頭になかった国防総省が、戦後の復興を亡命イラク人に任せたことや、何の受け皿もなくバース党の構成員を公職追放し、イラク軍を解隊したことなどが要因として挙げられる。

 しかし、そこにはもっと複雑な背景があり、重要な問題をはらんでいたにもかかわらず、なかなか検証されることがなかった。だから、映像作家ではなかったチャールズ・ファーガソンがリサーチに乗り出し、『No End in Sight』(07)という深い意味を持つドキュメンタリーを作り上げなければならなかった。

 この映画によれば、第二次大戦後のドイツに対する戦後政策は戦争終結の2年前から準備が進められていたが、イラク戦争の場合はわずか60日間だったうえに、展望もまとまりもなく、ほとんど役に立たなかった。そして、バグダードがぼろぼろになり、機能を失ったことが、現在の不安定な状況に繋がっている。

 『パリよ、永遠に』に描かれる交渉術やパリの運命は、そんな現在の状況を踏まえてみたときにより興味深いものになる。


(upload:2015/03/22)
 
 
《関連リンク》
フォルカー・シュレンドルフ 『魔王』 レビュー ■
ミヒャエル・ハネケ 『白いリボン』 レビュー ■
マーク・ハーマン 『縞模様のパジャマの少年』 レビュー ■
ケン・ローチ 『ルート・アイリッシュ』 レビュー ■
モハメド・アルダラジー 『バビロンの陽光』 レビュー ■
ポール・グリーングラス 『グリーン・ゾーン』 レビュー ■

 
 
 
amazon.comへ●
 
ご意見はこちらへ master@crisscross.jp