自分の名前をアルバム・タイトルにした『Kiran Ahluwalia』(05)では、カナダのケープ・ブルトン出身で、スコットランドやアイルランドの文化や伝統を継承するフィドラー、ナタリー・マクマスターを、『Wanderlust』(07)では、ポルトガルのファドのギタリスト、ホセ・マヌエル・ネト(Jose Manuel Neto)とベーシスト、リカルド・クルス(Ricardo Cruz)を、最新作『Aam Zameen:Common Ground』(11)では、アフリカから“砂漠のブルース”を代表するティナリウェンとその弟分のテラカフトを迎え、ハイブリッドでグローバルなサウンドスケープを切り拓いている。
そんなアルワリアの世界には、「モザイク」モデルのカナダ多文化主義のよい面が表われているといってもよいだろう。
しかし、先述したように多文化主義のヴィジョンには曖昧なところがあり、理想を実現するために乗り越えなければならない課題が明確になっている。そのひとつが相対主義だ。異なる見解に対して、どちらも同等の価値があるとみなすため、よりよいものを選択できなくなるような相対主義が蔓延する。『モザイクの狂気』では、以下のように説明されている。
「我々は、可能な選択による得失を注意深く調べ、それから、勇気を持って実際に何が「最善」であるかを提案するよりもむしろ、代わりに安易な道を取る。我々は宣言する――多元主義のお墨付きをもって――教養があり、啓発された、洗練されたカナダ人は、ほぼ何事にも寛大であり、何事に関してもめったに立場を明らかにしない人々であることを」
カナダのケベック州出身の異才ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督の『灼熱の魂』は、そんな課題や現実を踏まえてみると、その独特の構成や結末がより興味深く思えてくる。
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