[ストーリー] 舞台は南カリフォルニアにある架空の郊外の町ヒルサイド。物語は、地元の高校に通うディーンが、親友トロイの家を訪れ、彼が自分の部屋で首吊り自殺しているのを発見するところから始まる。そのトロイがドラッグの売買に関わっていたことから、ディーンはトラブルに巻き込まれる。
トロイが仕入れたドラッグを学校でさばいていたビリーは、ディーンを使ってトロイがどこかに隠したドラッグを見つけ出そうとする。まずビリーの友人の女の子クリスタルがディーンを誘惑するが、彼はビリーの魂胆を見抜いていた。そこでビリーは仲間のリーと結託して、ディーンの弟チャーリーを誘拐しようとする。ところが彼らが誘拐したのは、インテリア・デザイナーとして成功を収め、警官のルーと別れて、町長のマイケルと再婚しようとしているテリーの息子だった。
そしてヒルサイドの町は、トロイが隠したドラッグと誘拐事件をめぐって、さらにテリーとマイケルの結婚式とトロイの葬儀をめぐって混乱に陥っていく。
『ザ・チャムスクラバー(原題)』(05)は、イスラエル出身のアリー・ポジン監督の長編デビュー作だ。彼と脚本を手がけたザック・スタンフォードは自主制作でこの作品を作る予定だったが、脚本を読んだローレンス・ベンダーがそれを気に入り、プロデュースすることになった。もちろん自主制作になっていたら、これだけの豪華なキャストを集めることはできなかっただろう。
この映画は、サバービアを舞台に複数の物語が絡み合う群像劇になっているという意味では、ロバート・アルトマンの『ショート・カッツ』(93)を思い出させる。どちらの映画でも、外部が失われた郊外のなかで、すべてが表層と化していく。ただし、この映画の場合には、ティーンと大人の世界が意識的に対置されている。そういう意味では、ティーンの自殺のエピソードも盛り込まれたラリー・クラークとエド・ラックマンの『Ken Park』(02)に近いともいえる。
映画に登場する大人たちはみな自分の子供たちに無関心であり、それが混乱を大きくしていく。トロイが自殺しているのを発見したディーンは、自宅で開いたパーティのことしか頭にないトロイの母親キャリーに、そのことを告げられずに去っていく。精神科医であるディーンの父親ウィリアムは、新しい著書のプロモーションのことで頭がいっぱいになり、友人を亡くした息子を心配するというよりは、ひとつの症例として関心を持っているようにも見える。チャーリーの母親テリーは、息子が誘拐されたことにも気づかず、結婚式の準備を進める。
友だちの自殺と向き合えないディーンは、父親から与えられた抗うつ剤に依存し、次第にトロイの幻覚におびえるようになる。そんなディーンは、仕方なくトロイの部屋からドラッグを見つけ出すが、悪戯な彼の弟の方のチャーリーが中身をビタミン剤とすり替え、彼らの母親がトロイの葬儀のために準備しているキャセロールにドラッグを仕込んでしまう。 |