フェイス・オブ・ラブ
The Face of Love


2013年/アメリカ/カラー/92分/アメリカン・ヴィスタ/ドルビーデジタル
line
(初出:)

 

 

表層にとらわれ、記憶に溺れていく女

 

[ストーリー] 30年間連れ添った最愛の夫、ギャレットを突然の事故で亡くしたニッキー。後悔と喪失感が支配する毎日からようやく立ち直りかけた彼女に、一筋の光が差し込む。人生最悪の日から5年。ニッキーは夫と通った美術館で亡夫とそっくりな男性と出会ったのだ。30数年振りの恋の予感に胸を躍らせると同時に、夫との楽しかった思い出がよみがえる。罪悪感を覚えながらも夫の面影をトムに重ねるニッキーは、失った時間を取り戻すかのように新しい恋に夢中になるのだが――。[プレスより]

 『フェイス・オブ・ラブ』は、イスラエル出身で、2005年の『ザ・チャムスクラバー(原題)』でデビューしたアリー・ポジン監督にとって2作目の長編になる。『ザ・チャムスクラバー』は、南カリフォルニアにある架空のサバービアを舞台にした群像劇で、理想的に見える環境に暮らす住人たちのダークサイドを炙り出すブラック・コメディだった。

 この新作はそんなデビュー作とはまったくタイプの違う作品に見えるが、共通点がないわけではない。『ザ・チャムスクラバー』に登場する親たちは、見せかけの幸福、豊かさ、成功にとらわれ、自分の子供たちにまったく関心を持っていなかった。『フェイス・オブ・ラブ』のヒロイン、ニッキーは、亡夫ギャレットと瓜二つのトムの容姿にとらわれていく。

 ニッキーの前にトムが出現してからの展開は、ヒッチコックの『めまい』やタルコフスキーの『惑星ソラリス』を連想させる。だが、そんな出会いの背景には、巧妙な犯罪も、主人公の潜在意識を探って記憶を実体化させる海も存在しない。出会いはあくまで偶然であり、ヒロインの心理がリアルに掘り下げられていく。

 ニッキーの亡夫ギャレットは建築家で、彼女は彼が妻のために作り上げた家で暮らしている。夫の世界のなかで生きているような彼女が、過去を清算して新たな人生を歩み出すのは難しい。そんな世界のなかに、画家のトムがやって来れば、ギャレットと重なってしまうのも致し方のないことなのだろう。


◆スタッフ◆
 
監督/原案   アリー・ポジン
Arie Posin
脚本 マシュー・マクダフィー
Matthew McDuffie
撮影 アントニオ・リエストラ
Antonio Riestra
編集 マット・マドックス
Matt Maddox
音楽 マルチェロ・ザルヴォス
Marcelo Zarvos
 
◆キャスト◆
 
ニッキー   アネット・ベニング
Annette Bening
ギャレット/トム エド・ハリス
Ed Harris
ロジャー ロビン・ウィリアムズ
Robin Williams
アン(トムの前妻) エイミー・ブレネマン
Amy Brenneman
サマー ジェス・ワイクスラー
Jess Weixler
-
(配給:ブロードメディア・スタジオ)
 

 このドラマでは、記憶と現実の境界から緊張が生み出される。たとえば、ニッキーがトムを同伴して、かつて夫と通った馴染みの料理店を訪れる場面だ。夫が亡くなったことを知らない店主は、久しぶりに夫婦が来店したと思い込む。そんな雰囲気のなかで、彼女は記憶と現実の境界が消え去っていることに動揺する。さらに、彼女がトムの家を訪れ、壁に飾られた彼の写真を目にしたときには、自分の記憶の世界が揺らぎ、めまいを覚える。

 ニッキーは不安と喜びに引き裂かれそうになりながら、記憶の世界に溺れていく。一方、トムの立場は悲惨なように見えるが、必ずしもそうではない。ニッキーの輝きは、妻との離婚をきっかけに筆を折った彼に、創作欲を甦らせるようなインスピレーションをもたらすことになるからだ。


(upload:2015/01/28)
 
 
《関連リンク》
アリー・ポジン 『ザ・チャムスクラバー(原題)』 レビュー ■
サム・メンデス 『アメリカン・ビューティー』 レビュー ■
リサ・チョロデンコ 『キッズ・オールライト』 レビュー ■
ロドリゴ・ガルシア 『愛する人』 レビュー ■
ロバート・アルトマン 『ショート・カッツ』 レビュー ■

 
 
 
amazon.comへ●
 
ご意見はこちらへ master@crisscross.jp