[ストーリー] 30年間連れ添った最愛の夫、ギャレットを突然の事故で亡くしたニッキー。後悔と喪失感が支配する毎日からようやく立ち直りかけた彼女に、一筋の光が差し込む。人生最悪の日から5年。ニッキーは夫と通った美術館で亡夫とそっくりな男性と出会ったのだ。30数年振りの恋の予感に胸を躍らせると同時に、夫との楽しかった思い出がよみがえる。罪悪感を覚えながらも夫の面影をトムに重ねるニッキーは、失った時間を取り戻すかのように新しい恋に夢中になるのだが――。[プレスより]
『フェイス・オブ・ラブ』は、イスラエル出身で、2005年の『ザ・チャムスクラバー(原題)』でデビューしたアリー・ポジン監督にとって2作目の長編になる。『ザ・チャムスクラバー』は、南カリフォルニアにある架空のサバービアを舞台にした群像劇で、理想的に見える環境に暮らす住人たちのダークサイドを炙り出すブラック・コメディだった。
この新作はそんなデビュー作とはまったくタイプの違う作品に見えるが、共通点がないわけではない。『ザ・チャムスクラバー』に登場する親たちは、見せかけの幸福、豊かさ、成功にとらわれ、自分の子供たちにまったく関心を持っていなかった。『フェイス・オブ・ラブ』のヒロイン、ニッキーは、亡夫ギャレットと瓜二つのトムの容姿にとらわれていく。
ニッキーの前にトムが出現してからの展開は、ヒッチコックの『めまい』やタルコフスキーの『惑星ソラリス』を連想させる。だが、そんな出会いの背景には、巧妙な犯罪も、主人公の潜在意識を探って記憶を実体化させる海も存在しない。出会いはあくまで偶然であり、ヒロインの心理がリアルに掘り下げられていく。
ニッキーの亡夫ギャレットは建築家で、彼女は彼が妻のために作り上げた家で暮らしている。夫の世界のなかで生きているような彼女が、過去を清算して新たな人生を歩み出すのは難しい。そんな世界のなかに、画家のトムがやって来れば、ギャレットと重なってしまうのも致し方のないことなのだろう。 |