[ストーリー] 物語は雪景色のシカゴで、母親マリアンヌが運転し、ケリーとメアリーというふたりの娘が乗る車が事故に遭い、母親が帰らぬ人となるところから始まる。父親で大学教授のジョーは、ハーバード大学時代の学友で恋人でもあったバーバラの勧めもあり、娘たちを連れてイタリアのジェノヴァに転居し、地元の大学で教鞭をとることにする。
親子は、イタリア暮らしが長いバーバラのおかげで新しい環境に馴染んでいく。娘たちは、ピアノ教室に通いはじめる。16歳の姉ケリーは、父親に隠れて地元の若者と付き合うようになる。そして10歳の妹メアリーは、母親の姿を見るようになり、幻影にとらわれていく。
マイケル・ウィンターボトム監督の『ジェノヴァ』に描き出されるドラマは、一見シンプルに見えて奥が深い。まず注目しなければならないのは、ドラマの時間が巧妙に限定されていることだ。物語は冬のシカゴで始まり、それからほぼ半年の時間が省略され、ジェノヴァを舞台に夏に限定された家族の時間が描かれる。
この映画ではそんな構成が、主人公たちの複雑な感情について私たちが様々に想像する余地を生み出す。母親の命を奪った事故は、娘たちが後部座席で目隠しによる色当てゲームをしているときに、メアリーが母親にも目隠しをしようとしたことが原因で起こった。それは、たとえば母親がひとりで出かけて事故に遭うのとは違う。
悲劇は残された家族に異なる影響を及ぼしている。メアリーは罪悪感を抱えている。では姉のケリーはどうか。もしかすると妹が母親の命を奪ったと考え、彼女を憎む気持ちがあるかもしれないし、姉として妹の行動にもう少し注意を払っていれば事故を防げたかもしれないと悔やんでいるかもしれない。父親は事故の状況をどこまで正確に把握し、娘たちへの影響をどう考えているのか。母親の葬儀のあとの会食の場面では、三者の微妙な距離が暗示されている。庭でクラスメートと一緒にいたケリーは、突然、嘔吐し、周囲を驚かせる。 |