宮廷画家ゴヤは見た
Goya’s Ghosts Goya's Ghosts (2006) on IMDb


2006年/アメリカ/カラー/114分/ヴィスタ/ドルビーDTS
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(初出:「eiga.com」、若干の加筆)

 

 

肖像画を描いた男女の数奇な運命を通して
ゴヤは現代にも通じる激動の時代の目撃者になる

 

[ストーリー] 天才画家ゴヤが描いた2枚の肖像画――天使のように清らかで美しい少女イネスと、威厳に満ちた神父ロレンソ。肖像画が完璧な出来栄えで完成したその時、2人の運命はゴヤでさえ予想しなかった道をたどり始める。まさか、違う世界に生きる2人が、危険な愛に踏み込んでしまうとは――。

 時は18世紀から19世紀初め、内外の動乱に揺れるスペイン。ゴヤはカルロス4世の宮廷画家に任命される。王妃からも気に入られ、芸術家の最高位に上りつめたゴヤだが、一方で貧しい人々を描き続け、権力や社会を批判する絵画や版画を制作していた。彼にとって絵筆は、人間の真実を見つめ、嘘や不正を暴く武器なのだ。ある日突然、ゴヤにとってはミューズのような存在であったイネスが、無実の罪で囚われてしまう。彼女を救おうとしたゴヤが見た“真実”とは――?[プレスより]

 巨匠ミロス・フォアマンの新作は、ゴヤの伝記映画でもなければ、史実に基づく歴史ものとも違う。ゴヤは、肖像画を描いた男女の数奇な運命の証人となる。

 裕福な商人の娘で、ゴヤのミューズだったイネスは、カトリック教会の異端審問所からユダヤ教徒の疑いをかけられ、とらわれの身となる。ゴヤはロレンソ神父にイネスの解放を願うが、神父は彼女の美しさに魅了され、道を踏み外す。やがて彼らは、スペインを揺さぶる激しい動乱に巻き込まれていく。

 異端審問、フランス革命、ナポレオンの台頭。ゴヤはまさしく激動の時代を生きた。そんな画家の目を通して時代をダイナミックに描き出そうとする作品が出てきても不思議はないが、このアイデアは実際には簡単ではないだろう。

 ゴヤの視点を明確にするために絵画に頼りすぎればあまり映画的ではなくなる。画家の独自の視点をしっかりと確立できなければ、史実に基づく歴史ものになるし、単にゴヤ本人を掘り下げれば伝記映画と違いがなくなる。


◆スタッフ◆
 
監督/脚本   ミロス・フォアマン
Milos Forman
脚本 ジャン=クロード・カリエール
Jean-Claud Carriere
撮影監督 ハビエル・アギーレサロベ
Javier Aguirresarobe
編集 アダム・ブーム
Adam Boome
音楽 ヴァルハン・バウアー
Varhan Bauer
 
◆キャスト◆
 
ロレンソ神父   ハビエル・バルデム
Javier Bardem
イネス・ビルバトゥア/アリシア ナタリー・ポートマン
Natalie Portman
フランスシコ・デ・ゴヤ ステラン・スカルスガルド
Stellan Skarsgard
国王カルロス4世 ランディ・クエイド
Randy Quaid
トマス・ビルバトゥア ホセ・ルイス・ゴメス
Jose Luis Gomez
異端審問所長 ミシェル・ロンズデール
Micheal Lonsdale
マリア・イザベル・ビルバトゥア マベル・リベラ
Mabel Rivera
-
(配給:ゴー・シネマ)
 

 ミロス・フォアマンとジャン=クロード・カリエールは、実に巧みにこの課題を解決している。ゴヤは、肖像画を描いた架空の男女の愛と裏切りを通して独自の視点から時代を描き出そうとする。

 ロレンソは、教会では異端審問を強化し、国外に逃亡し、ナポレオン政府の大臣となって帰国する。イネスは、すべてを奪われ、時流とは無縁に幻想の愛を生きる。そんな男女を見つめることは、激動の時代をより身近に、しかも対極の場所から見つめることに繋がる。

 この映画の出発点は、半世紀前にチェコスロバキアの学生だったフォアマンが、異端審問と共産主義社会に共通点を見出したことにあるという。異端審問所による監視や自由と解放を旗印にしたナポレオン軍の侵攻と占領。男女の運命から浮かび上がる時代は、共産主義社会だけではなく、現代にも当てはめることができるだろう。


(upload:2015/07/25)
 
 
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