ヴォルフスブルク(原題)
Wolfsburg  Wolfsburg
(2003) on IMDb


2003年/ドイツ/カラー/90分/
line
(初出:)

 

 

車の視点と自転車の視点が交わるとき

 

[ストーリー] 自動車のセールスマン、フィリップはヴォルフスブルクの国道を走行中に、携帯で婚約者と口論になる。そして落とした携帯を拾おうとかがんだときに、自転車に乗った少年を撥ねてしまう。周囲に人影はなく、彼は一瞬、躊躇したものの、そのまま走り去ってしまう。自宅に戻り、なんとか婚約者との関係を修復した彼は、事故で車が接触した部分のパーツを交換してガレージにしまい、それからは会社の車を使うようになる。

 一方、スーパーマーケットで働くシングルマザーのラウラは、警官から息子が轢き逃げにあって病院に運ばれたことを知らされ、胸が張り裂ける思いで昏睡状態の息子を見守る。その息子は一度、意識を取り戻し、撥ねた車の車種を告げるが、病状が悪化し死亡する。その後、ラウラは車種を手がかりに独力で轢き逃げ犯を捜し続けるが、疲れ果てて川に身を投げる。そんな彼女を救ったのはフィリップで、やがてふたりの間には恋愛感情が芽生えるようになるが――。

 クリスティアン・ペッツォルト監督の作品では、車がしばしば重要な役割を果たす。『治安』(00)では、元過激派の夫婦とその娘にとって車が彼らの居場所となり、車を軸に物語が展開していく。『イェラ』(07)では、車による無理心中という行為が物語の鍵を握る。『イェリフォ(原題)/Jerichow』(08)では、川にはまりかけて立ち往生する車が出会いのきっかけとなって、三角関係のドラマへと発展していく。

 そして、この『ヴォルフスブルク(原題)/Wolfsburg』も例外ではない。映画の物語そのものには、これといった新しさがあるわけではないが、フィリップとラウラをめぐるエピソードが巧みに車に結びつけられていく。

 フィリップは車で移動する。彼の心の動きも、しばしば車内からの視点と絡めて表現される。たとえば、彼が事故現場の脇を通り過ぎると、そこには十字架が立ち、花が供えられ、被害者が死亡したことがわかる。これに対して、ラウラは常に自転車で移動する。轢き逃げ犯を探すときも、自転車であちこち尋ねまわる。つまり、双方の視点は、車と自転車で分けられている。

 それを踏まえると、川に身を投げたラウラを、フィリップが助けるエピソードがより興味深いものになる。フィリップが夜道を走行しているときに、自転車に乗ったラウラに気づく(彼は事故後、不安のあまり病院を訪れ、彼女のことを知っている)。フィリップは自転車を追い抜いてしばらく進んでからUターンする。

 彼は人気のない道でラウラに向き合い、告白する決心をしたのかもしれない。もしそういう展開になっていれば、車と自転車の視点の境界が崩れることはなかっただろう。ところが、橋まで戻ったところで、欄干に自転車だけが残されていることに気づき、川に入って彼女を救出する。そしてラウラは、車で自宅に運ばれて以来、フィリップと車内からの視点を共有するようになる。


◆スタッフ◆
 
監督/脚本   クリスティアン・ペッツォルト
Christian Petzold
撮影 ハンス・フロム
Hans Fromm
編集 ベッティナ・ベーラー
Bettina Bohler
音楽 シュテファン・ヴィル
Stefan Will
 
◆キャスト◆
 
Philipp Gerber   ベンノ・フュアマン
Benno Furmann
Laura Reiser ニーナ・ホス
Nina Hoss
Ketja アンティエ・ヴェスターマン
Antje Westermann
Vera アストリット・マイヤーフェルト
Astrid Meyerfeldt
Scholz マティアス・マチッケ
Matthias Matschke
Francoise ソラヤ・ゴマー
Soraya Gomaa
Klaus シュテファン・カンプヴィルト
Stephan Kampwirth
Paul Reiser マルティン・ミュゼラー
Martin Aaron Museler
Antonia アンナ・プリーゼ
Anna Priese
-
(配給:)
 

 その結果、ラウラは、『治安』に登場したジャンヌと同じように、車という空間のなかで微妙な立場に置かれる。『治安』の場合、主人公たちを繋ぐのが家族の絆であれば、車は彼らを守るためにあるが、ジャンヌにとってそれは同時に檻でもある。この映画でも、フィリップとラウラを繋ぐのが恋愛感情であれば、車は彼らを守るものだが、ラウラにとってそれは檻にもなり得る。だから二作品には似たような結末が準備されている。


(upload:2015/01/18)
 
 
《関連リンク》
クリスティアン・ペッツォルト 『あの日のように抱きしめて』 レビュー ■
クリスティアン・ペッツォルト 『東ベルリンから来た女』 レビュー ■
クリスティアン・ペッツォルト 『治安』 レビュー ■
グレゴー・シュニッツラー 『レボリューション6』 レビュー ■
ヴォルフガング・ベッカー 『グッバイ、レーニン』 レビュー ■
ハンス・ワインガルトナー 『ベルリン、僕らの革命』 レビュー ■
ウリ・エデル 『バーダー・マインホフ 理想の果てに』 レビュー ■
スティーヴン・ダルドリー 『愛を読むひと』 レビュー ■

 
 
 
amazon.comへ●
 
ご意見はこちらへ master@crisscross.jp