フレンチアルプスで起きたこと(レビュー01)
Force Majeure / Turist / Tourist Force Majeure (2014) on IMDb


2014年/スウェーデン=デンマーク=ノルウェー/カラー/118分/スコープサイズ
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(初出:「CDジャーナル」2015年7月号)

 

 

休暇中のある出来事から揺らいでいく家族の関係
『プレイ』のリューベン・オストルンド監督最新作

 

[ストーリー] スキー休暇を過ごすためにフレンチアルプスにやって来たスウェーデン人一家の5日間の物語。1日目はそろってスキーを楽しむが、2日目にトラブルが起こる。山腹のテラスで一家が昼食をとっているときに、付近の山で雪崩が起こる。テラスにいた人々はそれを写真やビデオに収めるが、気づけば近くまで迫っている。そのとき父親がとった行動が、その後の家族の関係に複雑な波紋を広げていく。

 スウェーデン出身の異才リューベン・オストルンド監督(『インボランタリー(英題)』『プレイ』)の新作です。第67回カンヌ国際映画祭のある視点部門で審査員賞を受賞しています。2015年7月上旬、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国ロードショー。

 とりあえず簡単に感想を。オストルンド監督は、もともとスキーに熱中し、スキーを中心としたスポーツのドキュメンタリーから映像作家としてのキャリアをスタートさせた人なので、スキーリゾートの日常やスキーのアクションが、家族のドラマに見事に生かされています。

 新作でもこれまでの作品と同じように、集団の力学や個人の心理が掘り下げられていきますが、『プレイ』よりも『インボランタリー(英題)』に近い悲喜劇になっています。雪山におけるアバランチ・コントロールは、登場人物が自己をコントロールすることの象徴になっているともいえます。

 あと、映画を観ていて思い出したのは、ジュリア・ロフテク監督、ガエル・ガルシア・ベルナル主演の『ロンリエスト・プラネット 孤独な惑星』(11)のことでした。レビューを読んでいただくと、共通するテーマを扱っていることがおわかりいただけると思います。

[以下、本作のレビューになります]

 スウェーデンの異才リューベン・オストルンド監督の『フレンチアルプスで起きたこと』では、スキー休暇を過ごすためにフレンチアルプスにやって来たスウェーデン人一家の5日間の物語が描かれる。その2日目、一家が山腹のテラスで昼食をとっている時に、付近の山で雪崩が発生する。そこにいた人々はそれを写真やビデオに収めるが、気づけば目前に迫っている。母親は咄嗟に子供たちを守ろうとするが、父親は姿を消している。結局、雪崩が大事に至ることはなかったが、父親の行動がその後の家族の関係に複雑な波紋を広げていく。


◆スタッフ◆
 
監督/脚本   リューベン・オストルンド
Ruben Ostlund
撮影 フレドリック・ヴェンツェル
Fredrik Wenzel
編集 ヤコブ・セッシェル・シュルシンゲル
Jacob Secher Schulsinger
音楽 オーラ・フロットゥム
Ola Flottum
 
◆キャスト◆
 
トマス   ヨハネス・バー・クンケ
Johannes Bah Kuhnke
エバ リーサ・ローヴェン・コングスリ
Lisa Loven Kongsli
ヴェラ クラーラ・ヴェッテルグレン
Clara Wettergren
ハリー ヴィンセント・ヴェッテルグレン
Vincent Wettergren
マッツ クリストファー・ヒヴュ
Kristofer Hivju
ファッニ ファッニ・メテーリウス
Fanni Metelius
ブラディ ブラディ・コーベット
Brady Corbet
-
(配給:マジックアワー)
 

 オストルンドはこの映画を作るにあたって、過去に起こった生死に関わる事件を広範にリサーチし、女性よりも男性の方が逃げ出して自分を守る傾向があることを突き止めた。つまり、統計的には父親の行動は必ずしも特異なことではないが、このドラマでは軋轢を生み出すことになる。

 そこで、筆者が思い出すのが、オストルンドの前作『プレイ』(11)のことだ。スウェーデンで実際に起きた少年犯罪にインスパイアされたこの映画では、黒人の少年グループが白人の少年たちにカツアゲを働く姿がリアルに描き出される。

 オストルンドが関心を持ったのは、白人少年に逃げる機会があっても、そういう行動をとらないことだった。実は白人少年には、黒人少年に対する先入観に起因する恐怖があり、黒人少年も自分たちがどう見られているのかをわかっていて、イメージを利用し白人少年を巧妙に操っている。双方が現実とは乖離したところで、それぞれの役割を演じているわけだ。

 この新作のドラマもそんな図式と無関係ではない。雪崩騒動の翌日、ショックから立ち直れない母親は子供たちを父親に託して単独行動をとり、ある女性客と親しくなる。ところが、彼女とその夫がそれぞれに火遊びを楽しんでいるとわかると、自分の家族がぐらつきかけているだけにヒステリックになり、批判を始めてしまう。

 おかげでさらに幸福な家族に固執するようになった母親は、夫の友人のカップルという第三者も交えた食事の席で雪崩の話題を持ち出し、夫を徹底的に追いつめていく。そしてこの夫婦もまたイメージに呪縛され、それぞれの役割を演じることになるのだ。

『フレンチアルプスで起きたこと』(レビュー02)は、リューベン・オストルンドの監督論にもなっていますので、ぜひそちらもお読みください。


(upload:2015/08/26)
 
 
《関連リンク》
リューベン・オストルンド
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